GLN「鹿角篤志人脈」:相馬茂夫

鹿角の昔ばなし@:特集 八郎太郎三湖伝説 おわりにA

◆昔話は心のふるさとです
鹿角市教育長 杉山新吉
 
 生涯学習に取り組んで二十年になりました。その学習領域は広く、複雑多岐ですが、郷土を深く学ぶことに着目していることは、本市の特色であると思っております。
 鹿角市には他の地域には見ることのできない資源に恵まれていることに気づきます。青垣山に囲まれ温帯特有の四季の変化が醸(かも)し出す景観美と、地下資源の鉱物は絶えたが、今もなお絶えることのない豊かな温泉資源、そして先住民族の遺跡の多いのに驚きます。
 この恵まれた資源を基盤に、第二次資源ともいうべき、鹿角独自の文化の発展もありました。私達の郷土、鹿角市には他に誇れるものがたくさんあることを自認しています。
 鹿角独特の文化とは何かとなれば、それは民謡であり、民話、伝説であると思います。「民話、伝説の里鹿角」と言われてきた理由も、ここにあります。
 しかし残念ながら、それが記録としてまとまったものがありませんでした。小さなパンフレットや、有志の人達が何かの行事に記録したものを、断片的に見る程度で淋しい思いをしてきました。
 最近、「日本昔話百選」とか「秋田のむがしこ」といった著書が出版されていますが鹿角からのものは出ておりません。やはり鹿角の昔話は、記録されていないために世間に広がっていないのだと思いました。
 生涯学習で郷土を学ぶことに熱意を抱く人々の多いことをうれしく思います。学校教育でも郷土学習を重視することにしています。その学習の教材として活用できるものが、今ここに誕生したことを大喜びしているところです。
 市内のある地域で、若い人達が高齢者の人達に期待することのアンケート調査をした報告を聞きました。その内容を多い順に列挙しますと、一番は老人の知恵、生活の知恵を伝えてほしい。二番目は昔のできごとを伝えてほしい。三番めに地城の民話、伝説を伝えてほしいとあって、昔話を求めているのにはびっくりしました。
 子供達は昔話を聞くことが大好きです。単純かつ簡潔であり、それでいて面白いし、そして心の温まる思いに浸ることができるからと思います。幼少時代に昔話を聞いて育った子供に非行はないと言いますが私は本当だと思います。
 社会人となって波乱万丈の荒波にもまれて失意のどん底に落ちたとき、それに活力を与えてくれるのはふるさとの心ではないでしょうか。昔話はふるさとの心の泉です。
 この編集作業に携わって下さった委員の皆様に深く感謝しお礼の言葉といたします。
 
◆伝説は後世に語り継ぐ郷土の歴史です
鹿角市教育長 杉山新吉
 
 「伝説の里鹿角」と、自他ともに認めておりながら、記録が少なかったことを残念に思っていました。
 然し昨年は鹿角市「郷土学習教材」編集委員会のご尽力により「陸中の国鹿角の昔っこ」が刊行され、それに続いて本年、伝説編が発刊されることは大き前進であると思っています。
 そもそも鹿角市は、四方を山に囲まれた花輪盆地の交通の要衝でありまして、表日本と裏日本の経済と文化の接触地でありました。
 このような環境の土地には独特の文化が芽生えることは必然であるとされています。このことを民俗学の権威者である柳田国男先生は、その例を遠野市に着目しています。また岩手民俗の会理事長の金野精一先生は、外界との交流のない単なる辺地であれば、一定の固定化した神話はあっても、創造性豊かな民話や伝説は生まれる筈がないとしています。
 この言葉通り私達の鹿角市は、遠い縄文時代からの辺地ではあったが辺地と辺地を結ぶ交通のセンター的役割を果たしたことから、ここに数多くの伝説を生んだことになります。
 祖先が長い歴史の中から生み出してくれた伝説。それを現在に伝えてくれた祖先に頭が下がります。私共の幼少時代は農作業の休憩時や冬は囲炉ばたで聞いたものです。古老達は語り伝えることが義務であるかのように、聞かせてくれるものでした。懐かしくもあり、有難く思います。そうした語りの中から幼少ながらも正しい生き方を求める道徳観や社会観が培われたと思っています。
 最近になって「原点に還ろう」と主張する声を聞くようになりました。原点とは昔に還ることでなく、本筋に戻ろうとの意味に解し私は大賛成です。特に幼少年時の教育の方法として原点に還ることは大事であると思っています。
 今から一五〇年前にドイツにフレーベルという教育者がおりました。世界ではじめて幼稚園をつくった人で、幼児教育は幼児が持っている神のような創造力、活動力を引き出して育ててやることが重要であるとし、決して教科書を用うることによって子供を自然界から遊離させてはならないと強調しました。その自然界の一つに私は伝説の存在は欠かしてはならないと考えています。
 何故かとなれば、伝説はその土地の人達が自然と共に生きた文化遺産だからです。それは学問上からも大きな位置を占めており特に広く民俗学として親しまれている現在です。民俗学の研究主体は民間人の生活の中に残存しているさまざまな伝承観念、習慣や習俗が村象とされます。そして現在の諸問題を解決するための正しい答えを出すための学問だとしています。伝説は民間人の過去の生活を探求するわけですから民俗学では重要部分を占めることとなります。
 私達も先輩達が語り伝えることが義務であると考えたように、私達もそのように考え実践しなければと思います。
 しかし聞こうとする人も少なくなり若者に伝えたい歴史が消え失せる心配がでてきました。それを補完してくれるもの「陸中の国鹿角の伝説」の発刊は大きな喜びです。編集に当たられた皆様には深く感謝している次第です。

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