鹿友会のこと
「はじめに」
 
 
△「鹿友会とは」その三 − 「鹿友会五十年史」創立当時
 
 会誌創刊号に掲載された「鹿友会創設の主意」なる一文は、正しく学生の意気を宣明し、その精神を  郷里の父兄に高揚したものである。
 こゝにその全文を掲げる。
 
○鹿友会創設の主意
 人類の優勝劣敗は未開の時世に於て、或は腕力により、或は門地によりて行はれしと雖も、 文明の進むに従ひ、全く智力の制する所となれり。故に此会に好地位を得んとするものは、 必ず智力の発達を要し、智力の発達は必ず高尚の教育に因る。
 
 今、我国教育甚だ盛ならずして、辺境に普及せざるを以て、高尚の教育を受けんと欲するものは、 必ず東京に遊学するを要す。是に於て、有為の少年、数百里を遠しとせず、笈を負ふて出京するもの、 日に月に益々多し。然れども、或は都会の風潮に迷眩し、或は学費の欠乏に堪へず、或は健康を保持する 能はず、半途にして志を挫折し、成業の期に達する能はざるもの、比々皆是なり。
 故に父兄は、子弟の遊学に危懼を生じ、有為の少年をして、空しく山間に埋没せしむるもの往々是れあり。 我鹿角既往の形勢の如き、即ち其一例なり。予輩大に之を憾みとし、仝郷の学友相謀りて、鹿友会を創立し、 以て此憂を除かんことを期す。
 
 今、父兄をして、危懼の念なからしめんには、予輩自ら奮ふて成業の先例をなさゞる可からず。 之を成さんには、卿友の親交を固ふし、互に相規諌し激励して、以て半途に志を挫折するものなからしむ可し。 我鹿友会員は、各此任に当るを誓ふものなり。故に其品行は、必ず方正厳粛なる可し。
 学を修むるには、必ず鋭精奮励すべし。如斯くして、我鹿友会員は、皆悉く故郷一般の嘱望するところとならば、 以て大に父兄疑懼の念を減じ、其子弟に高等教育を与ふるの志を啓発せん。此の志、既に動けば、其教育の方向、 順序、年月、学資等、享地百般の事情を知らんことを望むべし。
 
 我鹿友会は、亦此諮洵に答ふるの責任を負はんとするものなり。依て先づ左の規則を定め、以て故郷有志の先輩 と連脈を通じ、将来益々本会の隆盛を計らんとす。
明治二十年九月
 
 要するに、鹿友会結成の指導精神は、学生の相互激励と後進誘掖とを二大眼目とするものであった。
 而して文中、「我鹿友会員は、各此任に当るを誓ふものなり」の一句、まことに金鉄の如きものがある。

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