鹿友会誌(抄)
「第二十冊」
 
△詞苑
○無月会詠草
 五月雨
 吊橋の下奔流や五月雨 十四郎
 流し元に通ふ鼠や五月雨 樹人
 雲の峰
 雲の峰動かぬ蟇の瞳かな 去村
 夏野
 夏野来て河原の石に憩ひけり 去村
 富士雪解
 雪解富士甲斐の田植に聳えけり 樹人
 短夜
 明易き背戸に並ぶや瓜の尻 去村
 土用
 沼の風に八草撓む土用かな 樹人
 団扇
 団扇屋の主ジ宗匠でありにけり 十四郎
 袷
 案内者の裾端折りたる袷かな 樹人
 競馬
 境内の鳩は淋しき競馬かな 十四郎
 蝙蝠
 蝙蝠や社頭の杉の真暗より 十四郎
 夕風に芝屋幟や蚊喰烏 摩山水
 閑古鳥
 麻を刈る独り淋しや閑古鳥 樹人
 林出でゝ林の奥や閑古鳥 摩山水
 蟇
 蟇の面に広き空やな殖ゆる星 十四郎
 穴倉に落ちて久しや蟇 摩山水
 蛇の衣
 内陣の棚にかゝるや蛇の衣 去村
 卯の花
 卯の花に月が降らする狭霧かな 十四郎
 桐花
 花桐のほとほと落つや石だゝみ 去村
 窓近の子等の行儀や桐の花 樹人
 蓮浮葉
 納屋の側にかばかり池や蓮浮葉 樹人
 枇杷
 盆の枇杷に関せず囲碁に耽りけり 十四郎
 
○大正丁巳秋管内巡遊途上   青森 亞洲
江村視去又山村。百里行程叱馬奔。
逸楽安居非我願。微衷聊欲答天恩。
 
○遊十和田湖 同
十灣遥在日洲東。高岳深潭欲起龍。
雲雨動時霊気発。可無湖上出英雄。
(大正六年八月)
 
○戊午新春   亞洲
大戦多年又一春。極東帝国命維新。
芙蓉嶽上瞳々日。照遍天涯億兆民。
 
○和大久保詞兄芳韻
報国丹心志未灰。満腔壮気向誰開。
淹留須尽杯中物。僻地難逢雅客来。
川村明府。励精図治。庶績善挙。県民謳歌。余暇嗜吟詠。予偶到青森。訪問同君。名尾 部長亦在。鼎座暢談。痛欲徹霄。席上絶句。改起承。故歩韻不整。是予之咎也。請怨焉 。
霞城漫評
 
○席上口占贈川村知県   大久保霞城
戦雲漠々奈難開。誰是済時房杜才。湖畔十年放浪客。剣書閑談故人来。
 
○坂下吟社雑吟   五峰
 宮城内新聞記者詰め所坂下倶楽部同人、時に忙中閑を偸みて句作に耽る。拙作固より 多けれども、互選句集の中より左に
 杜鵑晩餐会の果つる頃
 食甚の天文台や杜鵑
 祭りの日青年団の勢ひ哉
 村祭り亡児を偲ぶ女房哉
 遺児の三人揃ひし単衣哉
 神酒添へて瓜冷したる清水哉
 短夜や針の手休む暇もなく
 退京の貴賓浴衣も召し給ふ
 鮎駛る清流に貴賓お成かな
 吾不関焉と大西郷の昼寝哉
 正装に勲一等功三級の暑さかな
 七夕に新星見えし噂さ哉
 星祭老女も交る集ひ哉
 亡き友の魂ひ宿せ月見草(追悼)
 燭暗く只虫の音の頻りなり
 道潅に蓑参らする驟雨
 鉄騎三千西泊利亜の野に夕立す
 夕立や蝉堂に大衆寂として

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