殊に汝、重て詔書の御趣意に反抗し、徒党致し、城地を去らず。
朝廷え対し、御配慮を掛け奉り、明治二年藩知事を拝命して藩籍藩庁を組織し、
始て政事主治権を得たる汝なり。
此権を維新に係る一己私人の用に濫用し、又濫用為さしむる小杉直吉の挙動に於ておや。
各藩同一の法令に基き、司法部行政部を設置したる事実は、公衆の知る所也。
新の主治権を盗み、恣に旧きに強引し、小杉直吉と共に濫用し、大日本帝国法衙を犯して、
国民に威力したる罪犯あり。汝は、予の財物強奪、延て天下の逆賊、
以て捕虜、伏罪悔悟を表し、恩典の御沙汰を仰ぎ奉り、大聖至仁文武天皇陛下、
出格至仁の恩典を賜へたる皇恩に報するに、
人道に趣く能はずして、恰も今日の支那□捕虜の如く、盗取賍物隠匿して、
返還を拒み、家制律書隠蔵する如き卑屈の至りに之れあり。
其家制規定なる条件、茲に記して、汝に示さん。 南部家規定支配家来席別 ○高知 ○公家 ○平士 ○給人 ○与力 ○徒士 ○同心 ○家来席の者、平民と縁組禁止 ○拝領屋敷売買禁止 ○家禄知行を身帯と称す、身帯売買書入禁止 ○拝領屋敷所持無之、町村に住居するものは平民戸籍を設け、村並町並役金銭夫役相勤め、 右籍に同居届出る事 ○町村役地に住居する者は、平民籍を元とし、家来籍を同居致し、一人にして両名とす、 町村役地を買得るも借受るも同断。町村平民の方に同居する者は、 別に平民の名前を設くるに及ばず ○拝領拝借諸士組付屋敷は一切の諸役免除す ○家来席の者は身帯相当軍役を務むるの外、一切の町村役を免除す ○役地田畑を買得る者は別に平民籍名義を以て売買可致候、家来席名義を用ゆるを禁止す ○町村に於て役地家屋敷貸家等買得る者も前同断 ○家来席の者は商業農業営むを禁止 ○家来席の者、商業営む時は別に平民籍名義にて営業のもろ役相勤むる事 ○家来組付の何者の論無く、民籍名前え被仰付候、御用は無異儀相勤候事 ○家来席名義より起る事件は、平民籍名義に不相拘候事 ○平民籍名義営業より起る事件は家来席名義に不相拘、一方に引受る事 ○民籍の営業に付、士分の威権兼用するを禁止 ○一人両名の者、家来席平民籍同時に御用有之候節は、民籍代人差出候事 ○家来席の者、身帯家屋敷御取上の言渡しを受けたる者にして、町村役屋敷に住居の者は、 内証自己の所有と雖も平民戸籍に同居の訳を以て家屋敷不取上候事 ○右の規定之あり、如斯規定の明白なるは、独り南部家而己ならず、 諸大名御私領に於て多く此の習慣之あり候に付、御一新廃藩以後、文明政府の公布を以て、 一人両名を禁止せられ、華士族平民、不動産売買、及商工業許可せられ候者に之れあり。 明治政府は、理由無くして一人両名を禁止せられたる者に無之候。 此御主意を知らざる者は、貧乏人の困民にして、租税貢納地壱畝も所持したる覚なき者の外は、 不知者の無之候。然るに小杉直吉は、 一人両名と云へば今日の強窃盗等が初犯には南町修助名前にて刑を受け、 二犯には北町の信助と云名前にて刑を受けたるものと同然に思ふは、 裁判官たる者の無知識なり。 殊に汝旧領の如きは、高持地主に士分の者多分に之あり。 村総代人は高割金取集めに困難を極めたる者也。 然りと雖も、各代官は士分の者へ説諭するの規定無之、村総代人に負担せしめたるは、 則前条規定に因り、民籍より起る事件は士分席名義に不相拘候儀に付、立替上納に汲々として 苦みたるもの也。 右の如く、規定に関係ある者は、日用に関係有之候に付、 暗黒の中にも習慣定例を以て汝等の淫蕩費充済したるものなれば、 強ちに規定の制限を隠匿する而己。 今日不正者手柄とすべき者に非ざるを顧み候はゞ、 人間社会の面目に対して、速に賍物を返還し、汝の為めに害したる名誉回復の手続を為すべきは、 人間の公法なり。人間の条理なり。 殊に大隈重信氏は、汝等如き盗賊に加担せらるゝ無開明人には無之、 断じて疑はずと雖も、惟ふに大隈重信氏は、修礼坊主の雁種を誤て鶴種と欺かれ、 養子買冠りたる程に付、汝等一層詐欺術に妙手を重ねたる者と思考、此事に候。 今日社会の英雄大隈伯を欺き、伯の逝を待て財産を得るは、汝等功妙、 予にしては甚良心の憎む所なり。 |