佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

△南部利恭被告事件証拠物として東京裁判所へ提出言渡書を弁駁す
汝等、無類の悪行至らざる無く、遂に政府の台命を蒙りながら、 悪漢相謀り、反復して悪意兇暴を逞ふし、山賊強盗の所為を行へ、 恣に佐藤屋庄六の商店に暴行して、金品を強取し、該物件の取戻しの件、 先般東京に於て訴求に及たる際、汝、言渡書証拠と称して提出し、汝、 要素強取に付、被害人手元に証拠書一切無之候と雖も、 是れと同一に視るべき、汝家来籍の者へ附与したる証文、左に掲げて主従の間柄の契約を示し、 毫も法律政事以内のものに非ずして、主と従との双務契約の証文たるべき事実明白なるものに付、 汝、目を開きて見るべし。 左に掲ぐる証文の如きは、嘉永四年奈良庄重郎は、御用金八百両を差上、 其賞として奈良重助え金弐両高に〆身帯拾石、汝より授けたり。 次の重助え譲り、金八両高に〆四拾石は奈良庄重郎より御用金弐千五百両差上候。 賞として庄重郎え授けたるものなり。 両度合せて三千三百両に対する、汝義務を以(て)債権者へ壱年金拾両授くる如き、 毫も恩給とするものに非ざるを知るべし。
 
   盛岡南部氏家来席の者え交附証文之写
金弐両、其方儀、右之通被下置就被召出候、証文遺候也。
 嘉永四年亥歳十二月廿一日     南部家老中連名判
     奈良重助殿
 
金八両高に〆、四拾石本家奈良庄重郎身帯地形金方御扶持方に而、百八拾七石六斗九升弐合の内、 金方右之通其方え致配当被下来候、金方弐両高に〆、拾石え足加、都合五拾石高被成下度段、 願之通就被仰付候、証文遺候、軍役可被相勤者也。
 嘉永六癸丑歳五月六日     南部家老中連名判
     奈良重助殿
 
金参両壱歩砂四分壱厘七毛、寛政以来新地御加増被下置候分。 御勝手向御補之依御趣意御取戻被成旨被仰出候付、被下来候、身帯高五拾石三ケ一 御割合を以、右之通十ケ年中被下置旨被仰出候処、安心茂無之儀与被思召、 永身帯就被成下候、証文遺候也。
 安政四丁己歳正月廿一日     南部家老中連名判
     奈良重助殿
 
   新田開拓に付、規定交附証文の写、奈良庄重郎へ申渡書参照不法の証
     被遺知行新田野竿高証文
高弐拾八石四斗三升八合、上田通御代官所上田村三ツ割村に而、船越太助親治兵衛え 被下置候、新田野竿高、右之通安政六年六月遠親類船越善四郎譲請、去る未年より亥年迄、 五ケ年中披立願之通被仰付置候処、用水配方普請向及兼候付、其方譲請披立申度善四郎より 相譲申度旨双方願之通被仰付候、披立之儀者当亥年より卯年迄五ケ年中、披立可申候、 追而披揃候はゞ、御竿可願出候、御検地被遺御改之上、小高帳可被下候也。
 文久三年亥九月     南部家老中連名判
     奈良重助殿
 
右之明文の如く、開き揃と熟地とは、其主意大に異なるものなり。 不学の者と雖も、見易き明文也。
 
   被遺知行新田竿高継証文
高弐拾八石四斗三升八合、其方儀、新田野竿高上田通御代官所上田村三ツ割村に而、 右之通去る亥年より当卯年迄五ケ年中披立候筈、証文遺候処、地付百姓不人数に而、 今以披揃兼候に付、猶又来辰年より申年迄五ケ年中、年延願之通被仰付、 披立仕付地相成候はゞ、御竿可願出候、御検地被遺御改之上、小高帳可被下候也。
 慶応三年卯十二月     南部家老中連名判
     奈良重助殿
 
右の証文は、従前一般の例文なり。此証文、所有者に対して妨害を加へ、 物件強奪する者は、社会国益妨害の奸賊なり。 習慣条理及法律に照依するも、為すを得べからざるものなり。
 
   安政四年閏五月廿日申渡之主意
        奈良庄重郎え被仰渡
其方儀、去年四月花輪通碇村谷内村新田開揃之趣、偽申上置熟地に無之場所、 精得御検地剰へ安政元年九月、碇村知行所御取戻之節、隠田奈良伝右衛門に 為取計返上仕候段、重々上を欺押領の致方、兼々我儘之所業有之、 士分に不似合重無調法に付、身帯家屋敷家財御取上げ、 雑人に御引下げ、牢舎被仰付者也。
  月 日
 
        奈良伝右衛門え被仰渡
其方儀、安政元年九月、花輪碇村奈良庄重郎、知行所御取戻之節、同人指図に随ひ 隠田取計、偽之絵図を以て返上地仕候段、上を欺押領之致方え同意、 専ら取計え不軽無調法に付、身帯家屋敷家財御取上げ揚屋入被仰付者也。
  月 日
 
        御雇御勘定方長谷川寛平え被仰渡
其方儀、去年四月奈良庄重郎、新田精御検地之節、諸始末も不致持参熟地に無之場所 御竿入取計え金子並に品物貰請候段、主役筋御規定に相背き謝礼を相含候、 取計方不心得至極に付、御雇御勘定方被召放身帯家屋敷御取上げ、 親類共に御預け逼去被仰付者也。
  月 日
 
   同年八月五日申渡之主意
        奈良庄重郎親類共え被仰渡
其方共親類奈良庄重郎儀、無調法の儀有之、身帯家屋敷家財御取上げ、 雑人に御引下げ牢舎被仰付候処、家財同人の妻子え被下置者也。
  月 日
 
        奈良伝右衛門親類共に被仰渡
其方共親類奈良伝右衛門儀、無調法之儀有之、身帯家屋敷家財御取上げ揚屋入被仰付候処、 家財同人之妻子え被下置者也。
  月 日

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