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「鹿角」 |
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△三 産業の鹿角 林業、鉱山業の発達に従って漸次虐げられて行くものがあるとしたならば、それは林業で なければならない。 鉱煙毒の被害が一般作物にも多々あるべしと雖も、山林の如く劇甚では無い、鉱業地を以って 天下に誇らんとする我鹿角郡は、林業に於ては殆んど誇るべき資料にさえも欠けて居るが如き 感があるも亦止むを得ない、一般に植林思想に乏しいことは、斯業の伸展を阻碍する最大の原因 であらうけれども、此事は鉱煙毒の被害と云ふことを前提とし、是れに惧れて居ることは、勿論で あるとしなければなるまい。 只茲に特記し得べきものは、桐樹の栽培である。 近年、機械工業の発達に伴ひ、桐材の利用が非常に広くなり、価格も自然騰貴するに連れて、 之が栽植するもの郡内各地に頗る多きを加へて居る、本郡の桐は、発育伸長共に良好にして、 材質又優良、声価俄かに高まり、京阪より商人入り込み、買ひ取るもの、年々参万円以上を越えて 居る。 将来益々有望な事業であることを信ずる。 工芸、本郡の工芸としては特殊の生産なく、主要輸出に属する物少きも清酒、醤油等の醸造品、 染物、製材、木工品、缶詰製造等の類を以って重なるものとする。 清酒にあっては、本郡の水質頗る醸造に適し、加ふるに冬季は空気清純にして温度の変化又少なく、 夙に醇良の銘酒を産出するのであった。 醤油の醸造は、花輪町浅利佐助氏の独占的事業とも云ふべく、其造石数二千六百石、実に県内 随一としなければなるまい、而して販路は啻に郡内の需要を充すのみならず、遠く北海道に迄も 移出されて居る。 染色工業として特記すべきものに、茜根染及び紫根染あり、色の古雅なると、容易に褪色せざる とにより有名であって、今や三越の楼上に異彩を放ってゐる、マルメロ缶詰と併せて花輪町の特産 となすべきである。 木通蔓は本郡の山野に繁茂して、殆んど無尽蔵なるものあり、之を編んで造る木通蔓細工は、 本郡に於ては約二十年前に之が伝習せられてより、漸次改良進歩の跡を止め、各地に多く移出 販売せられつゝあり。 |