5812火を防いで下さった神様の話(花輪)
 
                    参考:鹿角市発行「花輪・尾去沢の民俗」
 
 花輪のお城のすぐ近くに、位の高いお別当さんが住んでおりました。そのお屋敷は、
少し急な坂を登りつめた高台にあるのですが、いつの時代か、この坂の下の方に大火が
あったそうです。高い所なので、焔や火の粉がまともに上がってきて大変だったことで
しょう。その時、家の人方は勿論、火事見舞に来てくれた人々も、
「お社に火がつかないように……」
と、一生懸命に防いだそうです。このようにして、何時がたったてしょうか。ようやく
火もしずまり、
「やれ、やれ、火が移らないでよかった」
と、いって家に入り、一休みしていたとき、ある男の人が、
「不思議なことがあるもんだ。神さまらしい白い着物をきた人が、お社の軒端に立って、
指図をして下さったので、それにしたがったのだが、火がおさまったら見えなくなられ
た……」
と、もらしたそうです。
 
 また翌日になって、遠くからこの火事を見ていた人々は口々に、
「別当さんのお屋敷の方に、お祭りの時みたいに、御神燈のちょうちんが、いっぱいな
らんで輝いているのが見えた」
と、うわさしました。それで、
『このお社の建物は勿論、屋敷の木々も無事だったのは、やはり神さまがお守り下さっ
たのだ』
と信じ、別当を辞めてから長い長い年月がたっても、その御神体は大事に、家の神様と
して拝まれているということです。

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