5706蛇の祟タタり(西道口)
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 西道口サイドウグチに、何某と云う力強い爺さまが居ったそうです。
 ある日、田ノ沢の雑木林から柴を採って背負って来ました。
 堤の処に下りて来たら、種キュウリよりも太い大きな蛇が二匹いて、道を塞フサいでい
ました。
 そこで、背負って来た柴を堤の土手に置いて、
「今、お前と勝負するから逃げて行かないで、そこに居ろ」
と言って、楢ナラの木の瘤コブの太い枝を取って来ました。戻って来たら蛇が一匹居なくな
っていました。そこで、残りの蛇の頭のくびれた処を、瘤の木で思いっきり叩タタきまし
た。
 そうしたら、蛇はすぐぐったりなって死にました。
 そこで、側の杉の木にぐるぐる巻き付いていた藤蔓で、死んだ蛇を逆輪サカサワにして、
ずるずると引っ張って来ました。
 田の真中辺りに来たとき、藤蔓が何だか重たくなったような気がしたために、後ろを
見たら、蛇はヅギヅギと動いていました。爺さまは死んだと思っていた蛇が未だ生きて
いたのか思ったが、そのまゝ引きずって来たそうです。
 
 途中に来たら、馬喰バクロ達が二人居ました。馬喰は引きずられて来た蛇を見て、胴乱
ドウラン(煙草入れ)から煙草を出して蛇に掛けました。
 そうしたら、蛇は立ち上がって口を開けたので、二人の馬喰はびっくりして逃げて行
きました。
 爺さまはそこで柴を背負ったまゝ一休みして、それから家に引きずって来たそうです。
 童衆ワラシ達は、爺さまが大きな蛇を引きずって来たので、大騒ぎして村中に広まりまし
た。
 爺さまは、蛇のことをセメント樽に入れて、蓋をして重たい石を載せて置きました。
 このことを花輪の若者達が聞き付けて、爺さまの処に敷島シキシマと云う巻煙草を五つ持
って来て、蛇を譲って貰いました。
 
 若者達は蛇を小坂鉱山の祭りに持って行って、見せる相談をしていました。
 けれども、ヤシの権利(見せ物をする許可)を持たないために、どうしたらよいかと
思案しました。
 そこで、リンゴ持って行って、リンゴを一つ買ってくれた人に蛇を見せることにしま
した。忽ちリンゴが売れて、無くなってしまいました。
 これを見ていたヤシ(見せ物の興行師)の親方が、
「蛇を売ってくれ」
と言ったので、若者達はその蛇を高く売って儲けました。それで面白くてみんなして、
一杯飲み(酒飲み)しました。
 
 ある日、この仲間の一人が荷車を曳ヒいて来たら、鶏が出て来ました。
 そこで、石を拾って鶏めがけて投げました。その拍子に荷車がぐるっと回って、横木
に肋骨アバラボネをぶっつけて大怪我しました。この人はこの怪我が元で、とうとう死んで
しまいました。その後も、仲間の者達は次々と何かの災難に遭ったそうです。
 そして、三人残りました。三人の若者は、怖ろしくなってしまって、小豆沢の五ノ宮
の天辺テッペンに蛇が書いてある巻物を持って、三年続けて登って厄払ヤクバライの願ガンを懸
けました。
 それから災難は起きなかったそうです。
 それで、蛇の祟りは怖ろしいものですから、蛇に悪戯イタズラしたり見せ物にしたりする
ものではないと云います。

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