55 マタギ伝説「左多六とシロ」 参考:鹿角市発行「鹿角市史」 むかし、下草木に左多六サタロクというマタギがいた。左多六は日本中どこでも猟ができ る巻物(免状)を持っており、これは先祖の定六が源頼朝の富士の巻狩での功を認めら れて下されたものであった。 左多六はシロというとてもかしこく、主人思いの猟犬を飼っていた。二月のこと、左 多六はシロを連れて猟に出て、四角嶽のふもとで大きなカモシカを見つけた。左多六は 銃の引き金をひいたが、カモシカは血を流しながら逃げた。それを追ううちに、三戸と の境の来満峠まで来ていた。とどめの一発を打ったとき三戸の方から五人のマタギが現 れ、そのお境小屋が目に入らないか、勝手にほかの領内で猟をしてはいけないことは知 っているだろう、とつめよった。左多六は逃げようとしたが捕えられ、三戸城に引きた てられた。シロはこっそり主人の後をついていった。 牢に入れられた左多六は天下御免の巻物を忘れてきたことをくやしがり、明日は打首 かとため息をついた。シロは牢にしのび込み、やつれた主人を見ると一声吠えて風のよ うに草木へ向かった。真夜中に、山も谷も飛ぶように走り抜け、火のついたように吠え たてた。左多六の妻は帰りの遅い主人の身を案じており、雪だらけのシロを見て驚いた が何をすれば良いか分からない。シロはまた遠い山道を越えてすごすごと左多六のもと へ戻った。左多六はシロが巻物を持っていないのを見てがっがりしたが、力をふりしぼ り、シロ、あの巻物だ、仏さんの引出しの巻物だ、頼む、と涙をためて言った。シロは 主人の気持が伝わったのか、一声吠えると再び草木へ走った。家へ着くとありったけの 力をふりしぼって、仏壇へ向かって吠えた。その声は火を吐くようで胸がさけるかと思 われた。左多六の妻がハッと思って引出しをあけると、いつもは持って出る巻物がある。 妻は巻物の入った竹筒をシロの首につけ、背中をなでながら見送った。 シロは疲れを忘れ、主人のために雪の来満街道をまた三戸めざして夜通し走り続けた。 しかし峠を越したあたりで空が白みはじめ、明けの鐘がなったとき左多六の命はこの世 から消えていた。お仕置場に捨てられた主人のそばにしばらく付いていた後、シロは三 戸城の見える山の頂きに登り、恨みの遠吠を何日も続けた。それでこの辺りを犬吠森イヌ ボエモリという。間もなく三戸では地震や火事が続き、人々は左多六のたたりだと噂した。 罪人の妻は村におられず、シロとともに秋田領十二所の葛原クズハラへ移った。シロは村 の人たちを助けたので老犬ロウケンさまと呼ばれ、死んだ時には村人が哀れに思い南部領の 見える丘へシロを埋めた。今そこには老犬神社というお堂がある。[次へ進む] [バック]老犬神社 関連リンク 「その他神社の碑文/稲荷神社(下草木)」 関連リンク 伝説の地「草木」の産土神「草城神社」 「秋田の文化・秋田犬」![]()
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左多六とシロの里(下草木)
(向こうに見える集落に草城神社がある) [地図上の位置(左多六とシロの里)→]