5403梵天舗ボンテンシキの由来
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
梵天舗の舗シキとは、鉱石を掘る坑道コウドウのことです。
昔、和銅元年(708)にあったことです。
この年、武蔵ムサシの国(関東地方)から出た銅で、わが国で初めて銭ゼニが造られまし
た。
その頃、わが国で銅と云うものが見付からなくて、遠い中国から買っていました。
そこで天皇は、わが国にもないものだろうかと思われ、全国に命令を出して銅のある
処を探させました。
このことを地方の役人の長オサに伝えて、全国の隅々まで布れフレ回し、銅を見付けたら、
すぐ申し出るよう命令しました。
全国の地方の国主クニヌシに、このことを布れて歩かせました。
勿論奥州オウシュウ(北国)の国主達も、銅を探し回って歩きました。
きつい山を幾つも越えたりして歩くので、みんな全く疲れてしまっていました。
それでもがんばって、尾去沢オサリザワの大森山の麓フモトにやって来ました。
山は石とか岩で険しく、その上に大きな古い木が沢山生えていて、何となく霊験レイケン
(神様の力)あらたかな感じがする処でした。
そこで一行の者達は、山を眺めながら一休みしました。
その時、急に風の音も無くなり、辺りは静かになりました。遥か向こうの空の中に、
何か影カゲが映りました。
みんなびっくりして息を止めて、震えて見ていました。
そのうちに、その影は獣ケモノような形になり、そして大きな獅子シシの恰好カッコウになりま
した。
もう一つの影は、大勢のお供の人が大きな梵天(神様が乗り移っている大きな幣束
ヘイソク)を持って獅子の後に連れ添っている恰好でした。
一行の者達、
”これこそ獅子シシ大権現ゴンゲンだ”
と言って驚き、これから何か大変なことが起こるのではないかと、震えていました。
空から地上を見下ろす獅子の姿は、嵐のような凄スゴい形で、何がためなのか急に供人
トモビトから梵天を取って、怒り狂った様子で天を見上げ、何者かと争い戦うような激しい
恰好になりました。
人々はただ、呆然ボウゼンとあれよあれよと見上げていました。
そうしていたら、お日様の光が急に揺れ動きました。
その時、獅子王は梵天を地上めがけて投げ付けました。
その瞬間、国主クニヌシの一行達は、目が眩クラんで其処に倒れて眠ってしまいました。
国主は夢を見ました。そして夢の中で、
「探し回っている銅は、此処ココ大森山にある」
と神様からのお告げ事があって、ハッと目を醒ましました。
そして、銅のある処は、あの梵天が投げ付けられた処に違いないと思って、みんなで
木の枝を払ったり、岩山を登ったりして探し回りました。梵天が突き刺さっていた処を
見付けて掘って見たら、全部銅でした。
そこで一行の者達は、この銅を見て飛び上がって喜びました。
そして国主は早速銅を掘って、天皇に差し出しました。
天皇はそれはそれは大変お喜びになって、国主に沢山の褒美ホウビをくれました。
あの不思議な梵天が投げ付けられて突き刺さった処は、今の赤沢道の脇で、此処の銅
を掘った赤沢の処を梵天舗ボンテンシキと名前を付けました。
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