5102小平コビラの八郎太郎
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 十和田湖で南祖坊に負けた八郎太郎は、あちこち惑マドって歩きましたが最後は、生ま
れ故郷の鹿角に来て、男神オガミさんと女神メガミさんの処を堰止めて、鹿角に棲むことに
して、中の岱タイから小森山をどっこいと担いで来て、男神さんと女神さんの間を堰止め
てみました。
 けれども、あまりにも浅くて棲家スミカにはなりませんでした。
 それで今度は上台ウワダイの白山ハクサンさまに相談しました。すると隣の大森山一つを持っ
て行けと仰オッシャいましたので、喜んだ八郎太郎は、そこいら辺りに生えているぶどうづ
ら(ブドウ蔓)を沢山集めて縄に綯ナいました。それを大森山に懸けて、どっこいしょと
背負って立つ気になったが、動きませんでした。何回やっても駄目でした。
 
 おかしいなと思っているところへ、小平の薬師ヤクシさんが来ました。
 「八郎太郎、八郎太郎、お前さんは爺ジイの井戸と姥オバの井戸に腰掛けて、困らせて
いたね。二人が俺オレを呼んだために来て見たら、案の定この有様だ」
と咎トガめました。
 すると八郎太郎は、聞こえない素振りをして、またもうんうんと唸ウナって立ち上がる
気になりましたが、大森山はびくともしませんでした。それを見て、小平の薬師さんは、
今度は「クスクス」と笑いました。
 「何がおかしい」と八郎太郎が怒ったら、薬師さんはそれがおかしいと、また笑いま
した。八郎太郎は不思議に思って、
「どうしてそんなにおかしいのだ」
と訊キいてみたら、薬師さんは、
「よいか八郎太郎、山を背負うのを止めて、俺に其処を譲ってくれないか」
と仰いました。
「それはどう云う訳だ」と八郎太郎が訊いたら、
「それはな、お前さんの背負っているのは、爺の井戸と姥の井戸の守り神さんの黒瀧さ
ん(大森山黒瀧神社の祭神天乃手力男命アメノタヂカラオノミコト)なのだ」
と教えました。すると八郎太郎は、びっくり仰天して縄を解ホドいて後アトも見ないで、茂
谷モヤの山の方へがんがんと馳せて行きました。
 
 この辺りの山にぶどうづらが少ないのは、その訳です。また、高間館タカマダテの丘はそ
の時、八郎太郎が置いて行った縄の痕アトであると、云われています。
 今、爺の井戸の近くにある薬師さんは、元小平の下館一番地にあったものです。
 八郎太郎が最初に男神さん、女神さんを堰止めたとき、雁府ガンブまで水が上がってき
て、ガンブガンブと波が立ったために「ガンブ」と云う名前が付いたのです。
 「天乃手力男命」と云う神様は、天照皇大神アマテラスオオミカミ様が天アマの岩戸イワトにお隠れの
とき、天の岩戸を押し開けたと云う、力の強い神様なのです。
 
[地図上の位置(大森山)→]

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