06 作沢沼(樫内/小林)
 
        参考:八幡平地区連合青年会発行「むらのいぶき(八幡平の民俗)」
 
 作沢沼には、作沢神社(白沢神社とも)、御創前様(駒形神社)が祀られている。
 金、銀、銅の田の沢鉱山(田沼黒鉱山とも)に働いていた二人が作沢沼に釣りに出か
けて、魚を釣っていたら、葦の向こうに何か黒いものが見えた。何か鴨でもいるのかな
と思い、そんなに気にも留めず釣りを続けていると、その黒いものが沼の中央までスー
ッと進んで来ると、その沼の水が突然二つに分かれて、黒いものが大きな口をパッとば
かりに開け、釣り人めがけて突進して来たという。
 釣りの二人は、釣竿は勿論のこと篭も、持って行ったもの全てを投げ出し息もつかず
一目散に這って逃げて来た。村人がその釣り人達に聞くに、釣りに出かける前夜、馬肉
を食べていたとのこと、それで御創前様の怒りにあったのではと話していた。
 
 作沢沼は全国的にも珍しい沼で、広さ四町歩の中に草地の浮島がある。
 御創前様が杉山から馬に乗り、作沢沼に行く途中、樫内の渋谷六衛門の屋敷に休んで
行ったと伝えられる。
 ここにはそのためか、今でもその伝えと祠がある。また大きな沼を持つ神社であった
ため、この神社には旱魃の時、尾去西道口の人や、花輪の下タ町の人達がこの沼に来て、
馬の骨を入れたりして神様に乱暴して行ったとのこと、このようにして神様に雨を頼ん
だものらしい。
 又は、女が裸で沼に入り、泳いだりして神様を怒らせ、雨を祈願したと言われるが、
村に帰ると必ず誰か死亡したとも聞く。
 
 
0601 作沢沼
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 昔、作沢沼と云う処で、沼から出て来た化け物に、危アブなく食われそうになって、や
っとこさ逃げて来た人が居ました。
 作沢沼と云う処は、夏井の奧の樫内カシナイと云う村から上がって行く、山の上の林の中
にある約二町歩ばかりの広さで、全国でも珍しい浮き島(浮き草で出来た島)もあって、
とっても景色の良い処です。また、この沼に作沢神社(白沢神社とも)があって、蒼前
ソウゼン様(駒形コマガタ神社のこと)を祀っています。そのために昔は、何処トコの家でも、
馬とか牛ベコを置いていたために、お参りに来る人が沢山おりました。また、この沼に鮒
とか鯉とか雑魚ジャッコが居たために雑魚釣りに来る人がいました。
 
 ある時、田の沢鉱山で稼いでいる男の人二人で、何時イツものように作沢沼へ雑魚釣り
に来ていました。二人の他に誰も人が来なくて、辺りはシーンとして、気味キビ悪い位で
した。暫く夢中になって釣っていたら、浮き島の向こうの葦ヨシの根っこの近くに、黒っ
ぽい動くものを見ました。初めは鴨でも居たのではないかと思って、あまり気にしない
で雑魚釣りを続けていました。そのうちに、黒っぽいものが沼の真中マナカ辺りまで来たと
思った途端トタン、沼の水が真っ二つに割サけて、黒い物が、今までに見たこともない大き
な口をばっくり開けて、いきなり二人の男達をめがけて、勢いよく進んで来ました。
 びっくり仰天した二人の男達は、釣竿は勿論、何もかにも皆投げて、息も吐ツかない
で、真っ直ぐ山の道の処まで逃げて来て、坂道を転がるようにして下りて来ました。や
っとこさ、麓フモトの村に着いた途端に腰が抜けてしまいました。
 
 そこへ村の人達が来て、
「とうしたのだ」
と、聞かれたので、
「作沢沼で雑魚釣りをしていたら、大きな口を開けた化け物が出て来て、危なく食われ
るところでした。その恐ろしいことと云ったら、口では言えない程だ。とにかく死にぎ
りで逃げて来たが、腰が抜けてしまった」
 そうしたら、村の年寄りがそれを聞いていて、
「お前達、昨日は何を食べた」
と訊キかれました。そこで二人の男達は、
「馬の肉を食った」
と言いましたら、
「それだ。馬の神様の蒼前様の怒りに触れて、沼の主ヌシが出て来たのだ。危ないことを
した。よく逃げ得たな。あの沼へ行く時、よく気を付けた方が良い」
と、年寄りより諭サトされました。
 
 これより、もっともっと昔の事ですが、杉山スギヤマと云う村の蒼前様が馬に乗って、作
沢沼へ行く途中、夏井の樫内村の渋谷六衛門と云う処の屋敷に休んで行ったと云う言い
伝えがあって、今でも、其処の屋敷に蒼前様を祀った祠ホコラがあるそうです。
 
 それからですね、この作沢沼の神様は大きな沼を持っていたために、昔から、日照り
続きで旱魃カンバツの時、尾去オサリや西道口サイドウグチの人達とか、花輪の下タ町や下村シモラ(
花輪より下流の村々。SYSOP)の人達も来て、雨乞いをしました。どうしても降らないと
きは、馬の骨を沼に投げたりして、神様に悪戯し、怒らせて雨を降らせるようにしたと
云います。
 また昔は、この沼に女オナゴは来られませんでした。もし来れば、雨が降ると云う言い
伝えがありますので、女達が態ワザに来て、裸で沼で泳いだりして、神様を怒らせ、雨が
降るように頼んだりしました。
 こうして、神様を怒らせて村に帰って行くと、必ずその村の誰かが、にわかに死んだ
そうです。
 
[関連リンク(秘境作沢沼の植物)]
[関連リンク(白沢神社)] [地図上の位置→]

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