[詳細探訪] 参考:小学館発行「万有百科大事典」 〈香木と香道〉 香道とは、香木が発散する「匂い」を鑑賞することである。従って鑑賞の対象となる 「匂い」は、常に芳香を放ち、快感を与えるものでなければならない。 このように条件の許で、我々の祖先が選び出した芳香物質が「ジンコウ(沈香・沈水香 ・伽羅・奇南など)」である。沈香樹の樹脂が凝結して、芳香を放つように変化した物質 である。 沈香の産地は東南アジアの熱帯地方に限られているが、中でもインド産のものを最良 とし、その他タイ、マレーシアなどからも産出する。 香道で羅国・真南蛮・真那伽と呼ばれる香木の木所名は、何れもそれらの産地名に因る ものである。 また白檀・赤栴檀・寸聞多羅などは、香の鑑賞法が組香に移行した結果、使用されるこ とになった香木で、沈とは別で、元来は多種類の沈を一事に聞く(嗅ぐ)と嗅覚が麻痺 するので、それを癒すために使用されたものであるが、16世紀末頃から、六国列香と呼 ばれ、香道で使用する香木を6種(伽羅・羅国・真南蛮・真那加・佐曽羅・寸聞多羅)に限定 した結果、加わったものである。 一方、薫物タキモノを調製する材料としては、沈ジンの他に丁字・薫陸・甘松・欝金・霍(草冠 +霍)香・蘇合・青木香・安息香・白止(草冠+止)・桂心・檳榔子・乳頭香・白膠・甘草・瓜子・ 大棗・松皮・蒿根・草芽香などが古来使用されている。 このほかウメ・スギ・ヒノキ・ケヤキ・キャラノキなどは和木香と云い、沈以外の香木の 代用として認められている。 香の使用法としては、宗教的なもの、実用的なもの、趣味的なもの、と区別すること が出来るが、茲では香遊びを紹介する。 この遊戯も時の流れに連れて変化している。10世紀(平安朝)以来の薫物合は、15世 紀(室町中期)頃まで持続されたが、その後は名香合となり、香木(沈)が薫物(練香 )に代わる。その結果、匂いの対象が、人為的(動植物性)のものから天然自然(植物 性)のものに移ったが、遊びの方法は薫物合と大差なく、2種の香木(沈)の匂いの優 劣を判定し合う勝負事ゲームである。 それが16世紀以降になると、主として組香と云う形式で遊ばれることになり、今日に 及んでいる。名香合の形を一段と組織化したものである。組香は2種以上の香木を用い て、一定の主題テーマの下で、その匂いを楽しむ遊戯である。従って、主題が違えば規則 ルール(組香の構造式)も異なる。またその構造の背後には、常に文学的或いは史的な情緒 が根拠となっているので、創作が出来るところに組香の特徴があり、更にその構造式の 解釈に応じて、そこに使用される香の選択が必要となるので、多様な趣味が醸し出され る。 具体例を挙げれば、例えば「白河香」という組香は、能因法師の詠んだ、 都をば霞とともに出でしかど秋風ぞ吹く白河の関 と云う和歌を典拠として創作されたもので、「都の霞」「秋風」「白河の関」と名付け る3種の香を使用することで成立している。香の聞によって「白河の関」とか「関止め 」と云った下付があり、歌情を匂いの律動リズムや調和ハーモニーで表現されるところに、この 組香の楽しみの焦点があるのである。