39 短歌文法「形容動詞」
             短歌文法「形容動詞」
 
                      参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
 
 形容動詞は,ものごとの性質や状態を表す。活用はナリ活用とタリ活用の二種類があ
り,終止形は「・・なり」「・・たり」で言い切る。形容動詞だけで述語になることが出来
る。語幹のみの形でも用いる。本稿中,ナリ活用は(ナリ活),タリ活用は(タリ活)
と略記する。
 
あえか (ナリ活)か弱く,なよなよとした様。繊細な様。儚ハカナげな様。頼りない様。
 例「(夜の桜)身はあえかなり水となりゆく」「(離り住む夫への書)あえかに相聞
 となる」「顔よせて雌蘂メシベ雄蘂オシベのあえかなる(白梅の香・・)」
 
あから-さま (ナリ活)@顕アラワ。明か。はっきり。剥ムき出しに。例「・・あからさまに
 ぞ吾を逐ひ立つる」「・・西日射しあからさまなる仏壇の見ゆ」
 A急に。例「・・ボンネットあからさまなる雪となりたり」
 
あざ-やか(鮮やか) (ナリ活)@色・輪郭などがはっきりして美しい様。例「曼珠沙
 華マンジュシャゲ色あざやかに濡れて咲く・・」
 A人の姿・態度・行為などが,くっきりと目立つ様。際立って見事な様。手際の良い
 様。例「新しき眼鏡をかけて鮮やかに見つけし・・」例「(・・いきどほりたるまなじり
 の)恥鮮やかに夜のわが貌」
 
あはれ (ナリ活)@可愛らしい。心が惹かれる。
 Aいじらしい。可哀想だ。例「(鳳仙花こぼるゝ)人の吐息に似てあはれなり」「(
 かいかいと鳴く・・)昼蛙こそあはれなりしか」「・・月光ツキカゲになく虫の音も哀れにき
 こゆ」「・・春はまた帰りて花のあはれなるかな」「(・・かぼそく立つ煙)あはれなれ
 ども消すよしもなし」
 B侘びしい。冷酷なものだ。
 C美しい。深い味わいがある。
 
うち-つけ (ナリ活)@露骨。剥き出し。
 A即座。忽タチマち。出し抜け。例「ひぐらしの鳴くこゑ一つ打ちつけに(ここの窓にも
 ひびきぬるかな)」「うちつけに背を叩きくる雨音の・・」
 
おだ-やか(穏やか) (ナリ活)@静かで落ち着いている様。例「おだやかに妻にもの
 いふやすらけきこころを・・」「おだやかなる聖法然を思ふなり・・」
 A長閑ノドカな様。例「曇り風穏やかなれやみづうみの・・」
 
おほ-どか (ナリ活)ゆったりとして細かいことに煩わされない様。おっとり。鷹揚
 オウヨウ(大様)。大らか。例「おほどかに辛夷コブシの花は咲き満ちて・・」「(むすばれ
 し心もとけつ)おほどかに泰山木タイサンボクのにほふ夕ぐれ」
 
おほ-らか (ナリ活)ゆったりとこせこせしない様。大様オオヨウ(鷹揚)。たっぷりして
 いる。例「おほらかに照る陽をあびぬ身いつぱい・・」「わが子らはただおほらかに育
 てしに・・」
 
おぼろ(朧) (ナリ活)ぼんやり霞んでいる様。ほんのり。例「歩み得ぬおのれ朧に
 ただずめる・・」「おぼろかに月さす空に鳴りわたる春のいかづち・・」「・・生きし過ぎ
 ゆきみなおぼろなる」
 
おろか(疎か) (ナリ活)等閑ナオザリ。いい加減だ。疎オロソか。例「おろかならぬ熱と
 は思へ日を経フれば・・」「夏は素志ソシ勁ツヨくはあらずおろかにも・・」
 
おろそか(疎か) (ナリ活)@いい加減なこと。等閑ナオザリ。
 Aよくない。
 B「ならず」の否定形で,いい加減でない。大変だ。例「(わが病みしゆゑに励みて
 編集に)夜更かす人らおろそかならず」
 
かすか(幽か・微か) (ナリ活)@僅かに感じられる程度の様。例「(鉋カンナの音)隣
 合せにまだかすかなり」「(・・席)かすかに人の体温残る」「微かなる水のにほひに
 近づけば(木賊トクサに・・)」「木洩れ日はかすかなれども杉苔の・・」「・・うつそみのわ
 が吐く息かそか」
 Aひっそりとしてもの寂しい様。例「(・・歌つくり)幽かに生きて悔クイなからまし」
 「かそか」とも。
 
かつ-ぜん(戛然カツゼン) (タリ活)堅いものが触れ合う音を表す。例「神のこと知ら
 ず手中に戛然カツゼンと割りし胡桃の・・」
 
きは-やか(際やか) (ナリ活)くっきりと際立って目立つ様。例「・・かきつばたかげ
 きはやかに匂ひかがよふ」「きはやかに欅ケヤキのうへに澄む空の・・」「葉牡丹に灯光お
 よべばきはやかに(煌キラめき出づる夜の細雪ササメユキ)」
 
きよ-らか(清らか) (ナリ活)清く美しい様。例「清らかに冷たきみどり子を抱きつ
 つ・・」「山つつじ清らかにして芽をつづる・・」
 
くき-やか (ナリ活)くっきりしている様。輪郭がはっきりしている様。例「(薔薇)
 いやくきやかに映ゆる白と紅」「(・・西の空)富士くきやかに街の果見ゆ」
 
こころ-だらひ (ナリ活)心が満足する様。飽き足りる様。思う存分。例「(孫を歩ま
 す)心だらひにけふは遊ばむ」「(牛の肉)子らとたうべむ心だらひに」
 
こま-やか(細やか・濃やか) (ナリ活)@木目キメの細かい様。例「こまやかに散りゆ
 く庭の萩もみぢ・・」「(・・ふりそそぐ)雨はこまやかにしづかなるかも」
 A細かく神経を遣っている様。情が濃い様。
 B詳しい様。
 C色が濃い様。
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