25a 植物を詠める和歌[草/菅〜百合〜二葉葵]
△麦門冬バクモンドウ・ヤマスゲ
山菅の実ならぬ事を吾れにより 言われし君はたれとかぬらむ
(萬葉集 四相聞 大伴坂上郎女)
妹がため菅実スガノミ採りに行ける吾れ 山路惑ひて此の日暮らしつ(萬葉集 七雑歌)
ほのかにもきみをあひ見て菅根スガノネの 長き春日ハルヒをこひ渡るかも
(萬葉集 十春相聞)
おときけば人の物思ひやますげの 心みがほにさける花かな(和泉式部集 五)
△萱草ワスレクサ
つみもなき人をうけへばわすれぐさ おのが上にぞ生といふなる
(倭訓栞 前編四十二和(伊勢物語))
忘るゝも忍ぶも同じふる里の 軒端の草の名こそつらけれ(同(続古今集))
墨江の朝みつしほに御祓して 恋わすれ草つみて帰らん(同(新後撰集))
萱草吾が紐に付く香具山の ふりにし里を忘れぬがため(萬葉集 三雑歌 帥大伴卿)
萱草吾が下紐に著ツけたれど 鬼シコのしこ草事にしありけり
(萬葉集 四相聞 大伴宿禰家持)
忘草生る野べとはみるらめど こはしのぶなり後もたのまん(伊勢物語 下)
△浜木綿ハマヲモト
み熊野クマヌの浦の浜木綿ハマユフ百重モモヘなす 心は念モへどたゞにあはぬかも
(萬葉集 四相聞 柿本朝臣人麻呂)
さしながら人の心をみくま野の うらのはまゆふいくへなるらん
(拾遺和歌集 十四恋 かねもり)
△薯蕷ヤマイモ
野遊のさかなに山のいもそへて ほりもとめたる野老トロロ沢かな(廻国雑記)
△ところ
思ふどちところもかへずすみなれん たちはなれなば恋しかるべし
(拾遺和歌集 七物名 すけみ)
春の野にところもとむといふなるは ふたりぬばかり見てたりや君
(拾遺和歌集 十六雑春 賀朝法師)
返し
春の野にほるほるみれどなかりけり 世に所せき人のためには(同 よみ人しらず)
△菖蒲アヤメグサ
霍公鳥ホトトギスいとふ時なし菖蒲アヤメグサ かづらにせむ日こゆ鳴きわたれ
(萬葉集 十夏雑歌)
郭公鳴やさ月のあやめ草 あやめもしらぬ恋もする哉
(古今和歌集 十一恋 よみ人しらず)
しのべとやあやめもしらぬ心にも ながからぬ世のうきにうへけん
拾遺和歌集 二十哀傷 粟田右大臣(藤原道兼))
△劇草・杜若
墨吉シミノエの浅沢アサザハ小野ヲヌのかきつばた 衣キヌに摺り著けきむ日知らずも
(萬葉集 七譬喩歌)
から衣きつゝなれにしつましあれば はるばるきぬる旅をしぞおもふ(伊勢物語 上)
こき色かいつはたうすくうつろはん 花に心もつけざらんかも
(拾遺和歌集 七物名 よみ人しらず)
△芭蕉バショウ・バセヲ
いさゝめの時まつまにぞひはへぬる 心ばせをば人にみえつゝ
(古今和歌集 十物名 きのめのと)
世中のたのみ所にせし物を はせをばかくややかんと思ひし(信明集)
風ふけばまづやぶれぬる草の葉に よそふるからに袖ぞ露けき
(後拾遺和歌集 二十釈教 前大納言公任)
△薑ハジカミ
みつみつし 久米のこらが かきもとに うゑしはじかみ くちひゞく われはわすれ
じ うちてしやまむ(古事記 中神武)
△麻アサ・アサヲ・ヲ
夏麻ナツソ引く海上ウナカミがたの奥津洲オキツスに 鳥はすだけど君は音もせぬ
(萬葉集 七 雑歌)
桜麻サクラアサのをうの下草露し有れば あかしていゆけ母は知るとも
(萬葉集 十一古今相聞往来歌)
さくらあさのおふの下草はやくおひば いもが下ひもとかざらましを(袖中抄 十一)
桜あさのおふのうらなみ立かへり 見れどもあかぬ山なしのはな(散木葉歌集 一春)
△二葉葵
葵草照日は神の心かも かげさす方に先むかふらん(兼載雑談)
かくばかりあふひのまれになる人を いかゞつらしと思はざるべき
人めゆゑのちにあふひのはるけくば わがつらきにや思ひなされん
(以上、古今和歌集 十物名 よみ人しらず)
思ふなかさけにゑひにし我なれば あふひならではやむ薬なし(古今和歌六帖 六)
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