GLN町井正路訳「ファウスト」

第十六場 マルタの庭園

メフィスト  小猿め、去りおったな。
 
ファウスト  君は又探偵して居たのか。
 
はい、僕は詳細に聞き取りました、博士、貴君はあべこべに問答教授を受けま したね、其れが将来貴君を利せんことを祈ります、娘と云う奴は、古例に依て、男が 信心深く質樸であるや否やを知りたがるものさ、女は概して、若し男が信心で質樸で あれば、自分達にも従順なものと考えて居るのだ。
 
ファウスト  此の愛らしい信心深い娘は、信念が非常に篤いので、永遠の幸福を与えるものは信仰 許りであると信じて居るから、不信仰の為めに自分の恋人を失う様なことはありはせぬ かと、神聖に煩悶して居るのさ、それを察することの出来ない奴は当(まさ)に悪魔 だよ。
 
メフィスト  貴君は超慾的、兼肉慾的の恋人だ、小娘は鼻の先で誘惑して居ますぜ。
 
ファウスト  何だと、汚物と火から生れた畸形児め。
 
メフィスト  のみならず、彼奴は骨相学者なんだから驚いた、僕が来ると何だか不愉快な不思議な 感じがすると云うわい、僕の小さな仮面は、何か隠れた意味を娘に洩らしたらしい、 彼の女は確に僕の天才たることを認めたのだ、いや悪魔其物だと思ったに違いない、 いよ今晩は御楽み……。
 
ファウスト  其方(きさま)の知った事じゃないわ。
 
メフィスト  でも僕は興味を感ずるのだ。

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