29b 哲学のすすめ[人間の有限性の自覚]
 

〈基本的人権の基礎付け〉
 
△生命の尊重とは単に常識的か
 このようにして価値の基準を見出し、それが単に人間の生命の絶対的価値として尊重
で、これは常識的に認めているのではないか、との見方もあります。基本的人権の根本
は、生命の尊重であり、基本的人権の思想は現代の常識です。
 基本的人権の基礎付けは、一つは前述のとおりです。
 二つには、基本的人権の中の哲学的基礎を十分理解することです。基本的人権に対す
る見方は人によって異なりますが、その相違はその人の哲学・世界観に因ります。
 
△「基本的人権」は基礎付けられていない
 人間は何故「基本的人権」を持っているのでしょうか。
 歴史的には、基本的人権の思想は、時の支配者に対して人民がその権利を認めさせよ
うとする要求から次第に成立しました。其処には思想的根拠はなかった訳ではありませ
んが一定していませんので、思想的根拠を明らかにすること、或いは基本的人権と云う
考えに思想的根拠を与える必要があります。
 
△「基本的人権」は事実判断からは出てこない
 人間が基本的人権を持つ、と云うことは事実についての判断ではなく、価値判断です。
それは、人間は総て尊重されるべきである、との意味を持っているからです。
 人間を事実的に比べて、総ての人間が皆平等である、とは云えません。身長や体重、
能力、人種による皮膚の色など、事実判断によって、総ての人が平等に基本的人権を持
つことを基礎付けることは出来ません。
 
△単なる要求からも基礎付けられない
 総ての人は自己の生命の安全や、自由を要求するのであるから、基本的人権は認めら
れなければならないとし、哲学的根拠は必要ではない、とも考えられます。
 しかし、その要求自身が理由のあるものでなければなりません。
 
△「人間性」からも導かれない
 基本的人権の要求は、「人間性」と云う概念から出るとも考えられます。しかし人間
性の概念は全くの曖昧で、人間性も基本的人権も同義ととることも出来ます。
 また人間性とは理性を持っているからとも考えられます。しかし、理性的働きの出来
ない痴呆や狂人には基本的人権はないのでしょうか。
 
△「基本的人権」を基礎付けるもの
 それは、人間がかけがえのなさを本当に理解するとき、我々は如何なる人の生命も、
絶対的なものであると認めることが出来ます。
 基本的人権とは、単に生命の安全の権利のみではなく、思想・信教の自由、参政権・
社会権等々も含まれます。基本的人権の根本は生命の権利で、他の基本的人権は、生命
の権利の基礎の上にのみ成立すると思います。
 
△権利は義務を負う
 基本的人権が、一人ひとりの人間の生命のけがえのなさを認めることによって成立す
るとすれば、我々は他人の生命を尊重することなくして、自らの基本的人権を主張する
ことは出来ません。他人の生命を尊重することによってのみ、自分の基本的人権が生ず
るのです。
 この基本的人権は、人間の生命の絶対性を認める、と云う価値判断の基礎の上に成り
立つのです。人権の主張は同時に、他人の人権を重んずると云う義務を伴うのです。
 
△基本的人権と生存権
 基本的人権が人間の生命の絶対性を認めることによって成立するなら、基本的人権は、
生存権から切り離すことは出来ません。政治は、国民の生存権を確立する必要があると
思います。
 このような哲学的原理は、現実とは無関係ではありません。          終
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