85 菅家文草〈不定前途何処宿〉
 
                参考:太宰府天満宮文化研究所発行「菅家の文華」
 
〈不定前途何処宿〉
 白雲紅樹旅人家
 
 昌泰元年十一月二十四日、吉野の宮滝に宇多帝のご一行は到着された。
 その時、供の中にいた歌僧素性法師は、「今夜の宿は何処か」と問う。公は即座に「
白雲紅樹は、我ら旅人の宿である」と応えた。これは「行きくれて木の下蔭を宿とせば
花や今宵の主ならましを」と同趣である。
 
 
満山紅葉破小機     満山の紅葉、小機ショウキを破る
況遇浮雲足下飛     況んや浮雲の足下より飛ぶに遇ふをや
寒樹不知何処去     寒樹は知らず、何れの処にか去る
雨中衣錦故郷帰     雨中に錦を衣て、故郷に帰る
 
この満山の紅葉の錦、小さな機織ハタオリの織り成し得る所ではない。
それに白雲は足下から舞い昇って、両者の配合のいみじき美しさよ。
紅葉せぬ木は一本も見当たらぬ。
私はこの錦を身に着けて、晴れがましく故郷に帰ろう。
[次へ進む] [バック]