14 巻十五
 
  天平テンピャウノ八年ヤトセ丙子ヒノエネノ夏ナツ六月ミナヅキ、新羅シラギに遣ツカハさるる時トキ、使人等
  ツカヒビトタチ各オノモオノモ別ワカレを悲カナしめる贈答ソウタウ、及マタ海路ウミヂの上ウヘに旅タビを慟カナ
  しみ思オモヒを陳ノべて作ヨめる歌ウタ、並ナラビに所トコロに当アタりて誦詠ヨめる古歌フルウタ
大船オホフナをあるみにいだしいます君キミ つつむことなくはやかへりませ
真幸マサキくていもがいははばおきつなみ ちへにたつともさはりあらめやも
たくぶすま新羅シラギへいますきみが目メを けふかあすかといはひてまたむ
あまざかるひなのなが道ヂをこひくれば あかしの門トよりいへのあたりみゆ
 
  佐婆サバの海ウミの中ナカにて忽タチマち逆風アラキカゼ漲浪タカキナミに遭アひ漂流タダヨひて宿ヒトヨを
  経ヘて後ノチ、幸サイハヒに順風オヒテを得エ、豊前国トヨノミチノクチノクニ下毛郡シモツミケノコホリ分間浦ワクマノ
  ウラに到著ツキぬ。是ココに艱難イタヅキを追オひ怛イタみ悽惆イタみて作ヨめる歌ウタ
おほきみのみことかしこみおほふねの ゆきのまにまにやどりするかも(巻十五)
 
  肥前国ヒノミチノクチノクニ松浦郡マツウラノコホリ狛島亭コマシマノトマリに船舶フネハてし夜ヨ、遥ハルカに海ウミの
  浪ナミを望ノゾみ、各オノモオノモ旅タビの心ココロを慟カナしみて作ヨめる歌ウタ
あめつちのかみをこひつつあれまたむ はやきませきみまたばくるしも(巻十五)
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