12a 仏教
 
〈教典の成立〉
 釈尊の時代,教えは弟子達の暗記によって守られ,語り継がれていました。即ち尊い
教えは,それぞれが心に刻み込んで(暗誦アンショウ),正しく継承していくものとされてい
たのです。
 その後釈尊の教説を正しく保持していくことの大切さが必要とされたので,これらの
教えを編纂する集いがもたれました(結集ケツジュウという)。第二結集(仏滅百年後),
第三結集(仏滅後約二百年後)が行われ,別に文字で記された各種の諸教典も成立して
いきました。
 仏教の教典は,俗に「八万四千シセンの法門」と云われるように,1000年以上に亘って成
立してきました。しかし,どの時代に成立した教典であっても,釈尊の教法を正しく継
承していることを示す「このように私は(釈尊から)聞いた」との出だしで始められて
います。
 この教典冒頭の形式は,「六事ロクジ成就ジュウジュ(六つの条件の充足)」としてまとめ
られ,「このように(信成就)・私は聞いた(聞成就)・あるとき(時成就)・仏が(
主成就)・何処で(処成就)・誰に対し(衆成就)」の六つです。
 仏教史上では,教典を初期仏教・部派仏教・大乗仏教という三つの成立期によって分
類します。初期仏教の教典としては『法句経ホックギョウ』『スッタニパータ(経集)』な
ど,大乗仏教では,『般若心経ハンニャシンギョウ』『法華経ホケキョウ』『無量寿経ムリョウジュキョウ』『
阿弥陀経アミダキョウ』などの初期大乗教典がよく知られています。
 
〈諸仏・諸尊〉
 仏教の諸仏・諸尊は,その立場に従って,仏・菩薩ボサツ・天・明王ミョウオウ・大弟子と阿
羅漢アラカンなどに大別されます。
 「仏」とは元々仏陀(釈尊)一人を示す尊称でした。後,次の部派仏教・小乗仏教の
時代に入ると,この生身の釈尊が深遠化し,後の大乗仏教になると,更に仏法や救済を
象徴する永遠の仏となって登場します。また大乗仏教ではいろいろな如来ニョライや仏も登
場します。
 「如来」という尊称は,「如実に来るもの」意味し,仏と同義語です。
 「菩薩」の呼称は,当初来世において仏となることが定まっている人でしたが,大乗
仏教時代には,一切衆生の利益のために悟りを求めて精進する人を全て菩薩と呼ぶよう
になりました。そして更には,仏の境地に到達しながらも,菩薩の位に留まってこの世
(苦の娑婆シャバ)において,衆生救済のため慈悲の手を差し伸べる象徴的な菩薩が教典
に登場しました。例えば無仏の時代に衆生を救済する地蔵菩薩,仏の智慧を象徴する文
殊モンジュ菩薩,慈悲を体現する観音菩薩,同じく菩提心(慈悲の心)を象徴する普賢フゲン
菩薩,未来の救世主(未来仏)としての弥勒ミロク菩薩などです。
 一般的に諸天善神(天部テンブ)と呼ばれる諸尊は,その大部分がインドの民衆の間で
信仰されていた神々で,仏教に導入され守護神となった異教の神々です。代表的諸尊と
しては,四天王(持国ジコク・増長ゾウチョウ・広目コウモク・多聞タモン)・帝釈天タイシャクテン・毘沙
門天ビシャモンテン・吉祥天キッショウテン・夜叉ヤシャ・阿修羅アシュラ・梵天ボンテン・聖天ショウテンなどが挙
げられます。
 明王は,密教(後期大乗仏教に属する秘密仏教)において説かれた諸尊で,救い難い
(教化し難い)衆生を救済(教化)するため,忿怒フンヌの相を顕しています。わが国で親
しまれているのは不動明王で,仏像としては孔雀明王・愛染アイゼン明王などが知られてい
ます。
 仏弟子では,釈尊の十大弟子や重要な弟子が阿羅漢(聖者)として尊崇を受けていま
す。
 
〈小乗仏教と大乗仏教〉
 小乗仏教とは,釈尊とその直弟子達の時代の「原始仏教」や「初期仏教(根本仏教と
も)」,及び分裂した「部派仏教」を云います。「小乗」とは,大乗仏教側が名付けた
蔑称なのです。このため,部派仏教の伝統を継承する仏教者は,「自分達こそ純粋な釈
尊仏教を引き継いだ者」として,「上座部ジョウザブ(上座の長老の所属する意味)仏教
」,或いは「南方仏教」と称しています。
 小乗仏教の特色は,"伝統の継承"ということにあり,仏教教団の在り方として出家と
独身,戒の厳守という釈尊教団の伝統を今日まで継承してきた功績が挙げられます。
 大乗仏教とは,上座部仏教が戒を重んじて自己の悟りだけを目的としているのに対し
て,衆生済度シュジョウサイドを目的にする大乗の立場によるところの,仏教復興運動により
起こった仏教です。
 大乗仏教は,釈尊の教法の真精神を活かすという態度に特色があり,従って,日常生
活と仏法との関わりを大切にして,在家主義を標榜し,妻帯と緩やかな持戒,仏法の発
展的把握を身上にしています。
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