07b [国造り(二)]
 
〈神語カムガタり四首〉
 
 八千矛神ヤチホコノカミ(大国主神オホクニヌシノカミ)は、高志国コシノクニの沼河比売ヌナカハヒメと云う美し
い女性の噂を聞いて、求婚しようと遥々出掛けて行きました。
 沼河比売の家に着くとこの神は、妻問いの歌を歌われました。
 
 八千矛神さまは
 広い日本の国の中に一人の妻をも得ることが出来ずに
 遠い遠い高志の国に
 気性のしっかりした賢い女性がいるとお聞きになり
 然もそれが心細やかな美しい女性であるとお聞きになって
 求婚に来られたのです
 幾度も求婚に通われたのです
 そうしてこのように仰せになりました
 『太刀も腰から離さず
 外着も未だ脱がぬ旅の支度のまま
 早く乙女に逢いたいと
 乙女の眠っている家の前に立って
 その戸を何度も押し揺すったり
 引っ張ったりしていると
 緑の山にはぬえが鳴き
 野には雉キジも鳴いている
 庭には鶏さえ夜明けを告げている
 ああ腹立たしいこの鳥の奴め
 どうして鳴くのか
 こんな鳥は打ち殺して
 鳴くのを止めさせて呉れ』と
  海人の走り使いが語り言としてこう申し上げるのです
 
 ところが、沼河比売はその歌を聞いても戸を開けず、家の中からこう歌いました。
 
 八千矛神さまに申し上げましょう
 私ワタクシはか弱い女ですから
 心は何時も浦州ウラスの鳥のように恋人を求めています
 今は私の心ままに自由に振る舞う鳥ですけれど
 何時かはあなた様のお心のままになりましょう
 ですからどうぞ殺さないで下さいまし
  こう海人の走り使いが語り言として申し上げます
 
 緑の山辺に日が隠れ
 夜になりましたなら
 外へ出てあなたをお迎えしましょう
 そのときのあなたは
 朝日の輝くような微笑を湛えて
 真っ白い私の腕を執り
 若々しい柔らかい胸をしっかり抱き寄せ
 私の玉のような美しい手を枕にして
 長々と脚を伸ばして
 ゆっくりとお休みになるでしょう
 ですからどうぞむやみに恋ひこがれて下さいますな
 八千矛神さま
  語り言としてこう申します
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