0703盲長屋梅加賀鳶
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈盲長屋メクラナガヤ梅加賀鳶ウメカガトビ〉
「梅」
バラ科サクラ属の落葉高木。中国原産。古くわが国に渡来。樹皮は黒褐色。早春、葉
に先立って開く花は、5弁で香気が高く、平安時代以降、特に香を賞で、詩歌に詠まれ
る。花の色は白・紅・薄紅、一重咲・八重咲など多様。果実は梅干或いは梅漬とし、木材は
器物とする。未熟の果実を生食すると、屡々有毒。ブンゴウメ・リョクガクバイなど品種
多数。好文木コウブンボク。
「盲長屋梅加賀鳶」
歌舞伎脚本。河竹黙阿弥作。世話物。七幕。明治十九年(1886)三月東京千歳座で五
世尾上菊五郎等により初演。享和年間(1801〜04)にあった本郷の加賀前田侯お抱えの
大名火消加賀鳶と浅草下谷の八番組の火消の喧嘩を題材にして、偽盲の按摩道玄の悪事
を織り混ぜたもの。通称『加賀鳶』。
前田侯抱えの加賀鳶連中は、八番組の火消達と紛争の末、大喧嘩を始めようとするが
頭分梅吉ウメキチに制せられて漸く収まる。梅吉の女房おすがは雷嫌いのために子分巳之助
ミノスケと雷鳴を恐れて一つ蚊帳カヤに入ったのを、兼ねて彼女に横恋慕する子分五郎次
ゴロウジから密通と言い立てられ、兄貴分の松蔵マツゾウの許に預けられる。その後、五郎次
は死神シニガミに誘われて自殺しようとするが、命助かり、その改心によりおすがの身は晴
れる。盲長屋に住む悪按摩の道玄は、お茶の水で人を殺し金を奪った上、情婦のお摩サス
りお兼と共謀して、姪メイのお朝が奉公する質店伊勢屋へ、有らぬ難癖ナンクセを付けて強請
ユスリに行くが、来合わせた松蔵のため、人殺しの現場に落とした煙草入れを突き付けら
れ、すごすごと引き下がる。やがて道玄は悪事が露顕して、赤門前で捕らえられる。
幕末の市井情緒の中に、鳶の者の鯔背イナセな気質と、道玄の若干滑稽味を帯びた強悪振
りを配し、楽しめる世話物。初演の五世菊五郎は梅吉・道玄・死神の三役を務めて好評だ
ったが、その後、六世菊五郎が継承し、殊に道玄の役には親勝りの卓越した生世話キゼワ
芸を示したので、近年では道玄の筋だけが独立して上演されることが多い。ただし、加
賀鳶の筋の中でも「木戸前勢揃い」の場だけは、鳶の風俗が珍しくて壮観なので、大抵
道玄の筋に付け加えて出される。当代では二世尾上松緑・十七世中村勘三郎が受け継いで
いる。
[次へ進む] [バック]