[詳細探訪] 参考:小学館発行「万有百科大事典」 〈稲作行事〉 稲作はわが国経済の基盤であり、わが国文化の母胎であった。日本人の信仰はイネの 栽培と深い関係にあり、多様な展開を見せている。神話では、高天原タカマガハラの天照大神 アマテラスオオミカミが管理する天狭田アマノサダ・長田ナガタでイネが栽培され、その稲種を持って天孫 が豊葦原瑞穂国トヨアシハラミズホノクニ(わが国の古名)に降りて来たと伝えている。宮中の2月 17日の祈年祭キネンサイは、その年のイネの豊作を祈る祭りであり、10月17日の神嘗祭カンナメサイ や11月23日の新嘗祭ニイナメサイは、イネの豊作を報告し感謝する祭りである。 各地の有名無名の神社、農村などで行うイネの祭りは、イネの栽培過程に対応してい る。一年の初めに行う豊作祈願は正月に集中し、「物作り」と「庭田植え」の2系統が ある。「物作り」は餅や団子を木の枝に取り付け、イネが豊かに実った形として屋内に 飾るとか、木を削って稲穂の形に作り神棚などに飾る。「庭田植え」は稲作の作業過程 である種子蒔き、田植え、草取り、鳥追い、刈り取り、稲積みなどを、屋内か屋外で人 々が模擬的に演じて豊作を祈願する行事だが、最も苦労の多い田植えだけを演ずる地方 が多い。これを神社で行うときは、田遊び、田楽デンガク、田植神事となり、東京都板橋 区の徳丸田遊びとか愛知県北設楽郡キタシタラグンの田峯田楽などのように神事芸能として有 名なものが多い。実際の田植え作業に取り掛かるときに、華やかに田植え神事を行う処 もあるが、これは正月の行事の繰り返しと考えられる。元は一年の初めに行う祈願によ って、豊作が約束されると信じたのである。 実際の稲作過程に応じて行われる祭りは、播種ハシュの祭りで「種子蒔き祝い」「苗代祝 い」などと呼び、苗代の水口ミナクチに木の枝か季節の花を挿して供え物をする。次が田植 えの祭りで、田植えに取り掛かるときに行うのが「さおり」「初田植え」、終わったと きを「さのぼり」「しろみて」などと呼び、前後2回行う。田の辺ホトリ、家の神棚に3束 の苗を置き、餅、団子、酒などを供えて田の神を祭る。田植え後は、「虫送り」「雨乞 い」「照り乞い」「風祭り」など呪術的ジュジュツテキな行事がある。やがて穂を出して実を 結ぶと「穂掛け」と云って僅かのイネを刈り取り、神棚や神社へ供える行事がある。 田植え祭りと同じくイネの収穫祭りは気候条件によって地方毎に異なる。東北地方は 9月の「くんち」、関東・中部地方は10月の「十日夜トオカンヤ」、中部地方以西では10月の 「亥イの子コ」、北九州は11月の「丑ウシの日」となっている。何れも収穫したイネに供え 物をして感謝の祭りを営む。特に、翌年の種子になる籾モミを入れた俵は、田の神の神体 のように神聖視され、正月には祭りの対象にする地方が多い。祭りの内容には、穀霊と でも云うべきイネの霊魂が誕生する意味を持っていたことを示している。東南アジアの 稲作諸地域では、わが国の稲作行事に共通乃至類似する要素の多くが指摘され、儀礼の 面からわが国への稲作渡来経路を探ることも可能になって来た。 関連リンク 「松舘菅原神社年中行事(一月)」 関連リンク 「稲荷神社」