05b 日本庭園の手法2
 
 △仕切垣シキリガキ
 内露地と外露地の境界に設ける垣で,外垣に比べ簡素な形式を採ります。これを内垣
ウチガキと呼び,この一部には中門あるいは中潜,猿戸が設置されます。
 垣の形式としては外垣と同様,生垣,竹垣,柴垣,利休垣,宗左垣などの諸形式が用
いられますが,いずれも外垣より簡略,小型化して内外露地の変化をつけます。
 △手摺垣テスリガキ
 高さ1m程度に刈り込んだ生垣をいいます。枝葉の密な樹種,萌芽力の旺盛な樹種を用
い,刈込みの回数はできるだけ多くして密に仕上げるものです。庭の一部を区切り,動
線の誘導部分,又は階段の縁などに設け,これによって動線の誘導や仕切りの役目をす
ると同時に庭の景色の一部とします。
 △籬マガキ
 庭の中の重要な仕切りではなく,寧ムシろこの垣があることにより,景色をつけるため
に用いる垣根をいいます。従って高さも低く,できるだけ疎マバらに編み上げたもので,
四つ目垣,矢来垣などが利用されます。青竹,萩,クロモジを使用し,できるだけ粗野
な感じに編み上げるようにします。
 △築地塀ツイジベイ
 庭内の重要な仕切りに使われるときもありますが,一般には仕切垣に比べて重厚な感
じを必要とする外塀に使われます。普通,土煉瓦ツチレンガを積み上げて骨組みを作り,表
面を土壁で上塗りを掛けて仕上げる方法で築かれます。土煉瓦の中に古瓦を一定の間隔
に線状に挟んで積み上げ,これを積面の化粧とすると同時に,風雨による表面の荒れを
防ぎます。屋根は瓦,又は桧皮葺とします。
 
 △手水鉢チョウズバチ
 手水を使うための水を入れる器ですが,日本庭園,特に茶室では重要な役割を果たし
ています。材料は,古くから石造遺品や石臼のような廃品を巧みに活用し,一面ではま
た自然石の錆サビた姿なども好んで用いられてきましたが,これら石材のほかに陶磁器,
銅製なども使用されます。せいの低いつくばいに用いるものと,せいの高い縁先手水鉢
として用いるものとに大別され,更に自然石を用いたものと,加工したものとにも分け
られます。加工したものは,湧玉形,桝形,棗ナツメ形,水壷形(孤蓬庵の露結手水鉢はこ
の変形),円星宿,方星宿などがあります。
 △鉢囲いハチガコイ
 手水鉢と,それに関連した役石などよる一つの構成を指します。狭義には書院座敷の
縁先などに設けられる縁先手水鉢の構成を指すとみることもありますが,一般的には,
露地などに設けられる蹲踞ツクバイ構え,縁先手水鉢の構え,それにその照明のための燈
篭,ないし景のための植栽などを含めた一連の構成をも含めたものと解してよいでしょ
う。
 すなわち手水を使うために構成された,手水鉢を中心とする一つの造園的構成を鉢囲
いと呼びます。これは日本庭園において実用上,また庭園意匠上中心的役割を果たす一
つの局部といえます。
 △縁先手水鉢エンサキチョウズバチ
 書院前の簀子縁,濡縁などに関連づけて据えた鉢構えで,縁の上面から30〜40pの高
さに鉢を据えます。縁から水穴の中心までは50〜70pです。活け込みもののほかは鉢の
高さを台石で調節します。
 縁先手水鉢はこの台石のほか,かがみ石とは前石あるいは水返し石ともいい,水の跳
ねを返すために濡縁の下に据えた横長の石です。清浄石ショウジョウセキとは覗石ともいい,袖
垣の側に据える一つの景石で,水汲石より少し大振りの石を用います。
 水汲石ミズクミイシとは貴人の手水のため,介添えが上がる含みで据える石で,天端の平ら
な石を清浄石より少し低く,同時にこれに接続する飛石とも調和を保って据えます。
 清浄石,水汲石は手水鉢を挟んで,両側に大小高低色調などの上で釣り合いよく据え
ます。水揚石ミズアゲイシは水を汲み入れるために台石に寄せて据えます。これらの役石を
基本に水門を作りだし,吸込口を設けます。
 
 △蹲踞ツクバイ
 手水鉢を中心に,前石,湯桶石,手燭石で鉢前を構成します。前石マエイシはこの上に踞
タタズんで手水を使うため,上面の平らな大振りの石を飛石より3pほど高く打ちます。
手水鉢は柄杓で手水を使いやすいように前石より30〜80p離し,前石の天端より20〜30
p高く据えます。手燭石テショクイシはこの上に手燭を置くためのもので,多くは手水鉢の左
側に,水鉢の上面より15pほど低く据えます。湯桶石ユトウセキは湯桶を置くもので,手燭の
反対側に,水鉢より18〜20p低く据えます。これは天端の少し広く平らなものが選ばれ
ます。これらの役石を小石で繋ぎ水門を構成します。この小石の上面は地面から1〜3
p上げて打ち,水門に泥土の入らないようにします。水門は漆喰仕上げとし,排水のた
めの吸込口を設けます。この吸込口には普通,4〜5個の小石や瓦などを姿よく積み,
水穴を隠します。このようにして蹲踞構えが構成されます。
 蹲踞構えが置かれる位置は,茶庭では客の動作が滑らかに流れるように躙口ニジリグチと
刀掛に対する見合いを考えて据えますが,ときには土庇の内に置くこともあります。一
般の庭園では特に約束はなく,意匠的効果を主としてその位置を決めます。
 △下り蹲踞オリツクバイ
 蹲踞は水鉢の意匠,庭園の地形などに応じて自由に構成されます。庭園に変化を与え
るために,地面を掘り下げて谷間タニアイを作り出し,あるいは枯流れの低みなどを利用し
てそこに水鉢を据え,段を降りて手水を使う構成とした蹲踞構えを下り蹲踞と呼びます。
表千家点雪堂前のそれは広く知られる好例です。
 △流れ手水ナガレチョウズ
 蹲踞の応用で,池の中あるいは流れの中に水鉢を置き役石を配置したもの,あるいは
流れや池そのものを水鉢に見立ててこれに役石を配置したものです。前者の例としては
醍醐三宝院松月亭前の蹲踞など,後者の例としては桂離宮松琴亭前の池中に4個の石で
構成した流れ手水が広く知られています。
 △筧カケヒ
 露地の蹲踞などの手水鉢に湧水から竹樋を引いて清水を落とす施設で,懸樋カケヒともい
います。古くは自然の湧水を竹樋で導いたもので,丸竹で先端を斜めに削いだもの,割
竹で遠距離を樋状に導いたものなどがあります。現在では水道管を青竹で包むなどして
筧に似せて作ります。
 △四方仏シホウブツ
 仏教における四方仏のことで普通,釈迦如来,薬師如来,大日如来,阿弥陀如来を指
します。通常この四方仏を手水鉢に彫ってありますが,これは層塔の塔身を転用したも
ので,仏により置かれる方向も定められています。
 △僧都ソウズ
 露地の流れなどの一部に設けます。水が竹筒の節止のところに流れ入り,貯水の重さ
で廻転軸で支えられた竹筒が自然に傾いてその水が流れ出,筒の尻が急に下り石に当た
って音を発する装置です。音とその間マを楽しむものですが,この音で鹿を脅すために設
けられたともいわれています。竹筒は長さ約1mの真竹,受け杭の高さは約35pとされて
います。
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