07 竹文化〈竹未来〉
竹文化〈竹未来〉
〈新しい竹の味覚〉
△筍の王様スズコ
筍で一番美味しい筍がスズコ(ネマガリダケ)です。6月になりますと,中部地方か
ら北海道にかけて,奥地の国有林野などに出てきます。
・焼き筍:山採りした新しいものを,皮つきのまま囲炉裏で蒸し焼きにします。10分
位しますと,焼けた証拠として節間の空気がポーンといって勢いよくはじけます。その
まま,又は醤油か味噌をつけて食べます。噛むとシャキシャキした歯ざわりと,舌の上
をころぶチロシンの味など,まさに食通の味です。
・味噌汁:採りたてのものを剥皮して,長いまま味噌汁とします。この筍は包丁を加
えますと味が落ちます。海の王様の鮭の卵「スズコ」も,練ったり,焼いたり,煮たり
するより,そのまま食べると美味しいです。両種とも山海の珍味であるばかりでなく,
呼び名や,料理の性質まで似ていることは偶然の一致でしょうか。
・味噌煮,味噌漬: 富山県東礪波郡などでは,採った筍を夜中に剥皮し,朝方3時
ごろまでかけて煮あげて朝食に間に合うように売り歩きます。この筍を信州味噌で一晩
中煮上げますと,これまた最高の美味となります。
このほか塩漬,味噌漬,おから漬などにして保存します。保存したものは,流水に一
晩浸して塩出しして調理します。
・塩漬け法:岩手県における方法です。筍の原料は新鮮なものほどよく,古くなりま
すと黄色になり風味が著しく劣ります。原料100s,食塩30〜33s,ポリフィルム2枚,
差し水40〜50l,置石40〜50s,塩が少なくて置石を多くしますと形が崩れてしまいま
す。食塩は一度に使用せず2〜3回に分けます。1回目60%(20s),残りは2〜4日
後に20%(5s)ずつにします。補塩は,差し水を汲みだし塩をとかして入れます。歩
止まりは50〜65%,第1回の差し水は1回目の漬込みと同時に注入します。食べるに当
たっては,水晒しを8〜10時間とし,長すぎますと味が落ちます。当地方では,標高
1200m辺りのものが美味しい筍です。
・煮食法:一番美味しい食べ方は,前述の味噌煮のほか,青森,岩手ではニシンと一
緒に煮つけ,中部地方ではワカメとの味噌あえにします。兵庫,岡山,鳥取などでは木
の芽あえにします。
〈笹のスタミナ〉
△笹テンプラ
ネコはもともと熱帯地方の動物ですが,日本の蒸し暑い夏の気候には全く参ってしま
うようです。初夏ごろからビタミン不足やしばしば食中毒を起こします。このような状
態になりますと,タケの葉をよくかんで燕下し,細胞液のみを吸収してセルロースや珪
酸を吐き出します。もしタケ類がなければ,イネ科のエノコログサ,チガヤ,ススキな
どを同じ要領で食べます。
チシマザサ(ネマガリダケ)の葉にはビタミンB,C,Kなどのビタミン類や,カル
シウムなどが多く含まれています。そこで,まだ開葉しない初ウブな芯葉,すなわち巻
葉の,まだ十分に青味を増さない白味がかった柔らかいものを引き抜きます。これを丸
く結んで軽くころもをつけて,さっと揚げ,すぐ食べるのがコツです。笹の葉のさわや
かな匂いと,舌上をころぶような味には身の軽くなる思いがします。「山の料理の一品
」として,また夏ばて防止のためにも,ぜひご賞味下さい。
食べ頃は初夏から8月いっぱいです。登山中の疲労回復にも,この芯葉を噛みながら
歩きますと効果があります。昔の仙人も食べたといわれています。今のところ長期保存
の方法はないようです。
△竹の茶
冬の,竹薮手入れの合間に,青竹に水を入れて沸かしたお湯は,少し甘味があって格
別の味です。お茶の葉や竹葉を入れなくても美味しくいただけます。また,これを冷や
しますと一層うまく感じられます。
島根県の西南,柿木村などでは笹茶を常用しています。クマザサの一種でありますチ
ュウゴクザサの新鮮なものを刈って,焚火にかけて少し焦がし,これを茶瓶に入れ,熱
湯をかけてお茶がわりにします。緑色の液体が浸出し,茶碗に注ぎ込みますと,ほうじ
られた葉から,とてもよい香りが漂います。このお茶の薬効は,ネマガリダケやチュウ
ゴクザサがよいようです。
〈出筍補充性〉
モウソウチクの筍は,採らずに放っておきますと10日ほどで出終わります。しかし筍
を採りますと,3月から5月まで3ケ月間ほど出続けます。このことを筆者(室井綽氏
)は,竹の「出筍補充性」と名づけています。
例えば,笹が耕地に侵入したとします。この筍を全部刈り取ってしまいますと,さら
に小さい筍が出てきます。これを採りますとまた出てきます。それを何回か繰り返して
いますと,笹がだんだん弱ってきます。そうしますと人間の心も緩まってきて油断しま
す。このちょっとの油断でまた笹がはびこってくることになります。これは,出筍補充
性にいう笹の知恵に負けた例です。
この出筍補充性を竹の盆栽に応用しますと,盆栽をうまく仕立てることができます。
まず,鉢の大きさと仕立て本数を勘案して,その倍程度の地下茎の竹を3月下旬に鉢に
植えます。そして,太い筍が出るところ,細いものが出るところ,小さいものが出ると
ころなど鉢の上の盆栽の仕上がりを頭の中で想像設計し,この出筍補充性を利用して日
にちをずらして刈り込むのです。70〜80日経った初夏(5月)には立派な盆栽ができあ
がります。
[次へ進んで下さい]