41 八幡平の池沼・湿原
 
                         参考:鹿角市発行「鹿角市史」
 
 八幡平には多くの池沼や湿原などが点在し、数多くの湿原植物が豊富に見られること
も特色の一つである。
 
〈大沼〉
 大沼オオヌマは標高944mにある周囲1.01qの広い沼で、透明度1.7の富栄養湖である。沼の
浅い処は、フトイ・ミツガシワ・ミクリ・ヒルムシロ・エゾヒツジグサ・コウホネなどの水生
植物が生育する。
 沼の周辺は広い湿原と池塘チトウに囲まれているが、この湿原一体もかつては沼の一部で
あった処で、長い間に周囲からの表層火山灰の流入によって浅くなった処に、水生植物
の生育が始まり、更にそれらの腐植質の堆積を経て、湿原へと遷移したもので、この湿
原は更に乾いた草原へ移り行くものと思われる。既に現在この湿原の中に、ハイイヌツ
ゲ・レンゲツツジなどの低木類、ヤマドリゼンマイなどの侵入が見られ、湿原が乾きつつ
あることを示している。これが更に長い間に遷移が進むとやがて最後には森林が成立し
て行くものと思われる。大沼はこのように、沼から湿原へ、湿原から草原、森林へと遷
移の過程の姿を見られる点で、大変興味深い場所である。
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〈長沼と大谷地湿原〉
 ふけの湯の北東近くには大谷地湿原があり、更にその奥地には、ブナやアオモリトド
マツの密林に囲まれて、静かな幽邃ユウスイの中に広がる全く自然のままの姿の長沼がある。
 大谷地湿原は、ブナとアオモリトドマツの原生林に囲まれた広い湿原地帯で、ミズゴ
ケの堆積が厚く、中には大小の円形の池塘が見られ、その中にエゾヒツジグサなどが生
育している。また湿原の中にはツルコケモモ・ミタケスゲ・ミツガシワ・ホロムイスゲ・ミ
ヤマヒナホシクサなど、豊富な湿原植物が生育している。
 また長沼は、標高1,109m、周囲750m、透明度2.8の富栄養湖であるが、この沼には分布
上貴重なネムロコウホネの群落があることで知られている。ネムロコウホネは北海道の
根室で発見されたのでこの名があり、北海道東部の釧路地方に多いが、本州では八甲田
山・栗駒山・早池峰山と、この長沼にだけ産するもので、不連続分布として貴重なものと
云われる。長沼のネムロコウホネは見事な群落を作って、七月中旬には花を咲かせる。
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〈田代沼〉
 田代沼は八幡平の頂上に近い、比較的高所(1500m付近)にある小さな沼である。付近
一帯は、豊富な湿原植物に覆われていたが、登山路がその中を貫いているため、長い間
の多くの登山者の踏み付けによって、かつての面影は殆ど失われてしまっている。
 沼の中には、ヌマハリイ・ミヤマホタルイ・ミヤマヒナホシクサなどが生育しており、
周囲の湿原には、ミズバショウ・イワイチョウ・ミツガシワ・ヒナザクラなどが見られる。
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[画像表示〈八幡平アスピーテライン沿いの沼〉]
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〈大場谷地〉
 大場谷地オオバヤチは、トロコから玉川温泉への途中の、鹿角市と田沢湖町との境界近く
に見られる広大な湿原である。熊沢川沿いに、キタゴヨウの巨樹やアオモリトドマツの
混生する見事な渓谷の原生林を眺めながら遡ると、やがて視界が開けて広々とした湿原
の大場谷地に達する。
 この湿原一体は、其処に池沼の姿は見られず、遷移の過程としては、大沼や大谷地よ
り更に進んだ湿原と云われる。
 湿原内には、ミズバショウ・ワタスゲ・エゾノリュウキンカなどの湿原植物が豊富で、
初夏の頃には、八幡平の頂上などより一足早く花を付けたニッコウキスゲの美しい群落
が見られる。湿原の周囲には、チシマザサの群落が広がり、更にブナ・アオモリトドマツ
などの原生林に囲まれている。
 因みに、トロコから大場谷地までの途中には、名滝曽利滝ソリダキがあり、また、この道
路拡幅工事のときに海棲貝化石が見付かったと云う。
[画像表示(大場谷地)]
[地図上の位置(大場谷地)→]
 
〈硫気孔原の植生〉
 八幡平には後生掛ゴショウガケやふけの湯などような温泉地が多いが、こうした温泉地で
は、火山活動に伴う多量の熱湯や、水蒸気・硫化水素・亜硫酸ガスなどの噴出が見られ、
その周辺一帯にわたって、火山性の硫気に直接影響を受けて裸地状態となった、いわゆ
る硫気孔原が見られる。このような硫気孔原は、強酸性で貧栄養の土壌に被われ、普通
の植物の生育は困難である。しかしその中に、このような悪条件に耐えて生育する植物
の侵入が見られ、周囲の植生とは異なった独特の景観を呈している。特に後生掛温泉は
火山活動が最も活発で、規模の大きな噴湯や噴気現象の見られる処である。その周辺を
硫気孔原が広く被っており、噴気孔に近い処では、至る処にヤマタヌキランが小群落を
作っている。
 
 また、裸地に面した場所には、ススキ・ヌマガヤ・イソツツジ・ガンコウラン、更に離れ
てアカミノイヌツゲ・ウラジロヨウラク・アカモノ・シラタマノキなどの低木やイワカガミ
の群落が成立している。また周辺の尾根部にはキタゴヨウの群落が見られることも特徴
の一つである。
[画像表示(後生掛温泉付近)]
[地図上の位置(後生掛自然研究路)→]
[関連リンク(5601オナメ・モトメ)]
[画像表示(大湯沼)]
[地図上の位置(大湯沼)→]
 
〈ベコ谷地〉
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