21 岩石(地層)に生える苔とその友達〈コケ〉
 
         岩石(地層)に生える苔とその友達〈コケ〉
 
               私ども人類と,地質(岩石)とのインフォメーション
              を担っているいるものは,苔コケです。という意味でコケ
              ・シダを取り上げてみました。
               苔は,むき出しの岩石を美しく着飾ってくれます。そ
              して,樹木や山野草とは違ったイメージで自己主張して
              います。羊歯シダもまたユニークな存在で,多彩な山野
              草の引き立て役に徹しています。
               この記事は,家の光協会発行「原色コケ・シダ」を参
              考にさせていただきました。         SYSOP
 
〈コケとはどんな植物か〉
 普通に「コケ」といった場合に,どんな植物がこの中に含まれるかを調べてみますと,
実にさまざまなものがあります。
 これらを学問的な植物の分類方法に従って区分けしてみますと,次のようなグループ
に分類することができます。
 1 種子植物:サギゴケ,コケオトギリ,トキソウなど,小形の,せいぜい5〜6p
の高さにしかならないような植物,「コケみたいな草」という言い方もされます。
 これらは,植物は小さくとも,サクラとかバラなどの植物と同じく,ちゃんとした花
を咲かせ,種子を結んで殖えていく植物です。
 2 シダ植物:コケシノブ,ウチワゴケなどのように,小さな植物体をもつシダの仲
間です。この仲間の植物については,後述します。
 3 コケ植物:ゼニゴケ,ジャゴケ,スギゴケなどの仲間で,本稿でコケとして取り
扱う植物です。
 4 藻類:植木鉢の表面とか.地面,樹皮などの表面に,緑色のものがべったりくっ
ついていることがあります。植木鉢などが湿っていたりするとよく分かりますが,多少
ぬるっとした感じがするものです。これは顕微鏡で視ると,小さな,緑色をした藻類で
あることが分かります。水の中に生えているアオミドロやフシナシミドロといったよう
な藻類も,コケと呼ばれることがあります。
 5 地衣類:ウメノキゴケ,キゴケ,ハナゴケなどの仲間で,体のなかに藻類が入り
込んでいて,体のほとんどは菌類の菌糸が集まってできています。いわば菌類と藻類の
寄り合い世帯ででき上がった植物といえますが,キノコなどの菌類とは大変に変わった
植物です。コケ植物と姿,形が大変よく似ていますが,殖え方などはまったく違う,別
の植物群のものです。
 本稿で取り上げているコケは,3のコケ植物のことで,スギゴケ,ゼニゴケの仲間に
なります。この仲間のことを,他の植物群に属する「コケ」と区別して,コケ類,セン
タイ(蘚苔)類というように呼ぶこともあります。
 
〈コケ類の体のつくり〉
 コケ類は,植物体の茎と葉が明瞭に区別される茎葉体と,植物体が平で背側と腹側だ
けしか区別されない葉状体とに大きく2分されます。
 茎葉体になるコケ類は,スギゴケ,ハイゴケ,コハネゴケ,オオウロコゴケなどのよ
うなものです。軸になる茎と,これから横に広がっている葉があります。
 コケ類は茎の下の方や表面にひげ根のような毛のようなものが沢山つくことがありま
す。このひげ根のようなものを仮根と呼んでいます。仮根は水分や栄養分を吸収する働
きはあまりなく,土や樹皮などコケ類が生えているものに,体を固定する役目が主です。
 コケ類の茎は,水分や栄養分が通る維管束はなく,表面の部分だけが少しかたくなっ
ていて,全体にやわらかな茎が多くみられます。
 コケ類の葉は普通,質が薄く,すけて見えますが,これは葉が細胞一層でできている
ことによります。コツボゴケなど一部のコケ類では,葉の中央部にすじのような中筋が
あり,ここだけが数細胞の厚さになっています。
 葉状体になるコケ類は種類としては少数ですが,ゼニゴケやヒメジャゴケなどがあり
ます。植物体は平らで立ち上がることはなく,いつも地面を這っています。体の背面と
腹面は色が異なり,腹面には仮根を沢山つけており,この仮根で地面に固定されます。
 葉状体の内部のつくりは複雑で,隙間があり,この隙間が体の背側のところどころに
ある小さな孔につながり,体の中と外との空気の出口になっています。この孔を気室孔
と呼んでいます。
 マキノゴケやムラサキミズゼニゴケでは葉状体のつくりが簡単で,気室孔などはあり
ません。また,クモノスゴケ,ヤマトフタマタゴケなどでは,葉状体の中央を走る中肋
が発達し,他の部分は1〜数層の細胞からできています。
 
〈コケ類の一生と殖え方〉
 コケ類の植物体の上には,ときどき細長い柄を持った袋状のものがついています。こ
れは胞子体と呼ばれるもので,コケ類の繁殖の上で重要な役割を果たしています。胞子
体の柄はコケ類によりまちまちですが,短いものでは,イクビゴケのようにほとんど柄
がないものもあり,長いものでは10p以上になるものもあります。
 柄の先につく袋状のものは胞子嚢といい,コケ類の種類分けのときに大事な手がかり
を与えてくれます。
 スギゴケやハイゴケの仲間(蘚セン類)ではこの胞子嚢の上に帽という帽子状のものを
つけています。帽は若い胞子嚢だけに見られるものです。
 胞子嚢の上部には蓋があり,この蓋を取ると,小さな三角形をした歯があります。歯
の色は赤,褐色,黄色などがあり,大きさも種類によっていろいろ違います。この歯は
空中の湿度条件に応じて動き,胞子嚢の中にできた胞子と呼ばれる小さな粉状のものを,
胞子嚢から外へはじき出します。
 胞子嚢の中には胞子が沢山できています。コケ類の胞子は小さく,ほとんどが空気の
流れ(すなわち風)で四方八方に飛ばされます。1個の胞子嚢の中にできる胞子の数は
多いもので数十万,少ないもので16個ぐらいです。
 胞子が湿ったところに落ちると,小さな芽を出して糸状の植物体をつくります。これ
を原糸体と呼んでいます。原糸体がある程度育つと,この上に若いコケの植物体ができ
てきます。
 ゼニゴケやオオウロコゴケの仲間(苔類)では胞子嚢の様子は少し違って,帽や蓋,
歯などはありません。胞子嚢が熟すと,胞子嚢が4枚又はそれ以上に破れ,中から胞子
が出ます。このとき胞子とともに細長い螺旋状の帯を持った弾糸というものが出ますが,
コケ類の胞子を飛ばすのはこの弾糸の働きによります。
 原糸体にできたコケ類の体はどんどん大きくなり,やがて雌雄の生殖器官をつけます。
雌の器官を造卵器,雄の器官を造精器と呼びます。
 コケ類の種類によって,雌雄の生殖器官を同じ植物体の上につける場合(雌雄同株と
いいます)と,別々の体の上につける場合(雌雄異株といい,雄株,雌株に分かれます
)があります。いずれの場合でも,造精器から出た精子が,造卵器の中の卵に入って授
精します。授精した卵は発達して,大きくなったものが胞子体になります。
 このようにして,雌雄の生殖器官をつくり,卵の授精で胞子体ができ,胞子を形成し
て殖えていく方法を有性生殖と一般に呼んでいます。コケ類では,この有性生殖で殖え
ていくとともに,コケの体から直接に新しい植物体をつくる方法(これを栄養生殖とい
います)でも殖えます。
 栄養生殖の普通にみられる形は,無性芽による方法です。例えば,ゼニゴケの体の表
面にある盃状のものの中にできる小さなものは無性芽です。無性芽は,植物体の一部の
細胞(又は細胞の塊)が独立して,親の体から離れてできたものです。ゼニゴケのほか
に沢山の種類でこの無性芽は知られています。
 無性芽は胞子と同じく,湿ったところで発芽して原糸体をつくるのが普通ですが,ゼ
ニゴケなどでは原糸体にならず,無性芽がそのまま大きくなって,若いゼニゴケになり
ます。
 いま一つの栄養生殖の方法は,再生と呼ばれるものです。コケ類の体から,葉などが
ちぎれて落ちると,この葉の断片から新しいコケの体が発生してきます。この場合,ま
ず最初に原糸体がつくられるのは,胞子や無性芽の場合と同じです。
 コケ類の種類によっては,有性生殖がまったく行われず,栄養生殖ばかりを行い,殖
えているものが沢山あります。
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