06 樹陰に苔生す岩やその仲間〈地質の諸現象〉
樹陰に苔生す岩やその仲間〈地質の諸現象〉
〈地質の諸現象〉
さまざまな地層や岩石を野外において観察し,それらの相互の関係がどのようになっ
ているかを理解した上で,地質家は,地質平面図や地質断面図を作成します。したがっ
て,地質断面図一つをとってみても,そのなかには,調査した地質家の地質構造に対す
る一つの見解が示されています。すなわち,地質図は,自然をあるがままの姿にうつし
ているというよりは,こうなっているであろうと推定した地質家の思想(見解)が図面
に表現されているものといえます。そこで,前章で述べましたような地質学上のいくつ
かの基本原理と,自然をあるがままの姿に把握する能力(感性的能力)とが地質家には
要求されるわけです。
さて,それでは地質家がいかなる地質現象に着目して,地質調査をしていくのでしょ
うか。
△岩石の接触面
まず第一に重要なことは,二つの異なった地層(岩石)が,どのような関係で接して
いるかを調べることです。
たとえば,花崗岩と堆積岩の接触部において,花崗岩は脈状をなして堆積岩中にくい
こみ,また,花崗岩の部分には,周囲の堆積岩と同様な岩質の岩片がさまざまな形でと
りこまれているとします。このことから次のことが想像されます。
@以前から存在していた堆積岩中に,地下深所の花崗岩のマグマが迸入ヘイニュウしていっ
た。
A花崗岩のマグマは,周囲の堆積岩を崩しながら,次第に取り込んでいった。ある場
合には,堆積岩の割れ目に添って,岩脈となって迸入していった。
B花崗岩の周辺の堆積岩は,マグマの熱によって変質している。
C以上の点から,花崗岩は,堆積岩の生成時期より明確に後の時代のものである。
地質家は,このような花崗岩と堆積岩との相互関係を貫入カンニュウ関係と呼んでいます。
これに対して,似てはいるがまったく異なった地質現象として,溶岩流があります。
これは上方から流れてきて固まったものですから,取り込まれた岩片や焼けた接触面は
下方にしか見られません。
ある1種類の地層(岩石)は,無限に広がっているわけではなく,どこかで終わって,
他の地層(岩石)とぶつかっています。この隣合った岩石同士の境界面を接触面(con-
tact)と呼びます。この接触面から,地層の生い立ち,新旧の関係が明らかになります。
今いちど整理してみますと次のようになります。
@接触している二つの岩体についていうと,一方が他方のかけらをその内部に取り込
んでいる場合,その方が若い。
Aもし,火成岩がそれと接触している他の岩石を焼き,あるいは,変質させているな
らば,焼かれた岩石よりも火成岩の方が新しい。
Bもし,岩石が,他の岩石の中へ,舌状ないし枝状をなして貫入しているならば,侵
入している岩石の方が新しい。
△褶曲シュウキョク
山地でみる地層(岩石)は多くの場合,堆積当時の水平性は失われて,堆積後の長期
間にわたる地殻変動のため褶曲(folding)し,断層によって切断されています。
褶曲には次のようなものがあります。褶曲の中心線を褶曲軸と呼び,背斜褶曲の場合,
その中心線を背斜の軸と呼ぶことがあります。
@背斜ハイシャ褶曲:地層が山形になっている。
A向斜コウシャ褶曲:地層が谷形にまがっている。
B等斜褶曲:背斜,向斜を繰り返し,褶曲の中心を通る面が互いに似た角度で傾斜し
ている。
C複合褶曲:細かな褶曲の繰り返しが,さらに大きな褶曲となってみられるもの。
△断層
褶曲が著しくなりますと,地層はもはや塑性ソセイ的な変形に耐えられなくなり,せん
断破壊を起こします。このせん断を断層面と呼んで済ます。断層は,地表のくい違いと
なって表れます。ごく最近の地震による断層は,地震断層と呼んで他の断層と区別しま
す。第四紀時代に入って動いたと思われる断層を活断層と呼びます。
断層は,断層面に沿ったみかけの運動の方向に基づいて次にように区分しています。
@正断層:傾斜した断層面に沿って,その上側の地層が,下側の地層に対して見かけ
上,下方に動いたものをいう。
A逆断層:傾斜した断層面に沿って,その上側の地層が,下側の地層に対して見かけ
上,上方に動いたものをいう。
B水平移動断層:傾斜あるいは垂直な断層面に沿って,水平に運動したものをいう。
また,地層のずれ(落差)があって断層があることは分かるが,断層面がまったく失
われているか,少なくとも失われる傾向にある断層を”面なし断層”といいます。糸魚
川―静岡構造線(糸魚川―姫川―諏訪湖―釜無川カマナシガワ―富士川―静岡を結ぶ線)の
ような断層を”超大型の断層”といいます。
△節理
節理と亀裂キレツとは,いずれも岩石中に存在する割れ目のことです。節理はある規則
性を有する割れ目のことをさし,亀裂とは明瞭な規則性のない割れ目のことをいいます。
六角柱状の節理は,玄武岩や安山岩の溶岩流のなかに発達し,しばしば景勝の地とな
っています。北陸の東尋坊トウジンボウ,日光の華巌ケゴンの滝,兵庫県の玄武洞ゲンブドウな
どは,このような柱状節理が美しく発達しているところです。
方形の節理は,花崗岩や分布が広く層厚の厚い砂岩層などのなかに発達しています。
板状の節理は,安山岩などにしばしば見られ,その代表的なものは長野県の鉄平石テッペ
イセキの採石場で見ることができます。
△整合と不整合
”いちばん若い(新しい)地層はいちばん上にあり,一番下にある地層は一番古い”
というのが地層累重の法則(前述)です。この場合,上下の関係にある二つの地層が連
続して堆積していれば,両者の関係は「整合である」と呼ばれます。これに対し,二つ
の地層の間に大きな侵食作用の働いた時期があったり,地変の時期があったりして,二
つの地層が堆積する間にある時間的なギャップがある場合,両者の関係を不整合といい
ます。
△地殻運動
大地は長い歴史の間にいくたびも変動を繰り返してきました。
相模川,多摩川など河岸のような平坦な美しい段丘地形は,全国各地に見られますが,
これは,下降侵食や側方侵食と,地盤の上昇運動(隆起)の繰り返しによってできたも
のです。
参考 「やさしい地質学」築地書館株式会社発行
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