11 森林の土を掌に〈土壌の理学的性質〉
森林の土を掌に〈土壌の理学的性質〉
〈はじめに〉
林木が良好に生育するために必要な土壌条件としては,林木が必要とする養分や水を
十分に保持し供給し得ること,根の呼吸に必要な空気の流通が良好なこと,膠軟で根系
が自由に発達するのを妨げないこと,などがあげられます。このうち本稿では養分関係
など化学性以外の分野,つまり土壌の理学性,あるいは物理性と呼ばれるように,土壌
を構成している土壌粒子,粒子と粒子の隙間を満たしている水や空気の構成状態,保水
力や水の働き,土層の硬さなどの物理的な性質を主体とします。
森林土壌の理学性の調査では,底面100平方p,高さ4p,体積400tの金属の採土円
筒を用いて自然状態を撹乱しないように採取した土壌を用いることとします。
〈自然状態の土壌の理学的性質〉
△三相組成(容積組成)
土壌は細土,礫,植物の根などの個体と,これらの固体と固体との隙間(孔隙)を満た
している水(液体)及び空気(気体)の三つの部分に大別されます。これらの固体,液
体及び気体を土壌の三相と呼んでいます。これらの三相がそれぞれ全容積に対してどの
ような割合(容積比)を占めているかを示したのが,土壌の三相組成です。
わが国の土壌では,おおむね固相は20〜40%,液相は15〜70%,気相は5〜50%の割
合となっています。例えば固相は表層土より下層土の方が大きいですが,表層土では20
〜35%,下層土ではほぼ1%が根であとは固相です。
全容積から固体の容積を差し引いた残りの容積が孔隙ですが,表層土では褐色森林土
亜群は約65〜75%,黒色土群は75〜80%が孔隙率です。
△容積量と比重
自然状態の土壌の容積量は,採土円筒の試料中に含まれている細土の乾燥重量を,円
筒容積から礫と根の占める容積を差し引いた容積で割った価をg/100t単位で示したも
のです。すなわち細土の占有し得る容積に対して,実在している細土の重量を示したも
のです。
細土の比重は腐植の含有率の高いほど小さく,褐色森林土亜群では,A層は2.3〜2.5,
B層では2.5〜2.7程度の場合が多いです。
岩石,鉱物,その他の比重
種類 比重
砂岩 2.60
粘板岩 2.75
花崗岩 2.52〜2.67
正長石 2.50〜2.60
石英 2.50〜2.80
雲母 2.80〜3.20
褐鉄鉱 3.40〜4.00
赤鉄鉱 5.10〜5.20
カリオン 2.50
腐植 1.37
△圧結度
実験室内で調整した風乾細土を最も密に詰めた場合の容積量に対する自然状態の容積
重の比を%で示したものです。細土の詰まり具合,すなわち理学性の良否を示す指標と
なります。
△孔隙率
一般に膠軟で理学性の良好な土壌では孔隙は大きく,堅密な詰まり型の理学性の不良
な土壌では小さいといえます。しかし,森林土壌では,理学性の良好な多礫質の崩積土
などでは必ずしも孔隙率は大きいといえません。また,微細な孔隙に富む火山母材の土
壌では,堅密な詰まり型の土層でもかなり高い孔隙率を示す場合が少なくありません。
土壌の理学性の良否と孔隙との関係は,孔隙率の大小よりもむしろ,孔隙の大きさの
方が大きな影響を及ぼしているといえます。
△最大容水量
土壌が最も湿ってる場合(飽水状態)の含水量をいい,最大容水量は土壌の保水力を
示す目安となります。
・含水率:土壌の含水量を水を含んだ状態の土壌(湿土)の全重量に対する%で示し
たものです。
・含水比:土壌の含水量をその土壌の絶乾重量(乾土重量)に対する%で示したもの
です。
・水分率:土壌全容積に対する水の占める容積を%で示したもので,前述の三相組成
の液相率に相当します。
△最小容気量
自然状態の土壌を飽水させた場合,孔隙量の全容積に対する%,すなわち全孔隙量と
最大容水量の差を最小容気量と呼んでいます。
このような飽水され難い孔隙を生ずるのは,
@ごく微細な毛細管で連結されていたり,袋状,くびれを有するために,飽水時に空
気が孔隙内に封入される場合
A粗大な礫の間隙,腐朽根や土壌動物によって形成された粗大な孔隙などで,飽水時
に重力にさからって水を保持できない場合
などが考えられます。
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