15 チョウの発色研究
 
                チョウの発色研究
                                        
                                 参考 AFF19941
 
〈技術に活かすチョウの発色研究〉
 チョウは種類や雌雄によって様々な色彩の羽を持ち,私たちの目を楽しませてくれま
す。そのフ色の素フは羽や鱗粉に含まれる色素と思いがちですが,必ずしもそうではあり
ません。鱗粉の微細な構造に光があたって,複雑な反射をすることから,特定の色が作
られる場合もあります。
 例えば,羽の表面が鮮やかな青色で,見る角度によって微妙な変化を示すことで有名
な,南アメリカ産のモルフォチョウです。鱗粉が青色の色素を持っているわけでなく,
少量ある蛍光色素も見た目の色にはほとんど関係していません。
 ではなぜ色が見えるのか,電子顕微鏡などで詳しく調べてみて,鱗粉の形に関係する
ことが分かりました。
 このチョウが持っている鱗粉の表面には,幾段もの枝を持った樹木のような構造があ
ります。そこの光が当たりますと,一番上の枝で反射する光,二番目の枝で反射する光,
三番目,四番目の枝で反射する光・・・・・といったように,反射光がズレを起こしな
がら重なる作用が起こります。
 この反射干渉と呼ばれる現象をおこす鱗粉では,"枝の太さ"と"枝と枝の距離"が,ち
ょうど青い色の光が持つ波長と同じです。
 そこで,モルフォチョウの羽から反射してくる光は,青く見えることになります。さ
らに,羽を斜めから見た場合には,枝と枝の間隔も斜めに長くなりますので,青色がほ
んの少し変化するというわけです。
 日産自動車基礎研究所では,新しいタイプのボディーカラーを探るために,チョウの
発色研究をしているそうです。
 現在使用されている塗料は色素を含ませているため,紫外線の影響などで時間ととも
に分解して,退色することが避けられません。しかし,モルフォチョウの鱗粉が持って
いるような,微少な構造を人工的に作って,塗料とすることができるなら?
 分解しやすい色素を使った塗料より安定した,寿命の長い色彩が得られるかるしれま
せん。さらには,見る方向によって色調が変化するボディーカラーも考えられます。
 ところで,人間にとっては"見えない"である紫外線を,多くの昆虫たちは目で見て
いる事実が知られています。
 チョウ類も例外ではなく,自分たちの好みの花を紫外線が反射されるパターンによっ
て見分けて,近づいているようです。そればかりか,モンシロチョウではオスとメスを
見分けるのにも,紫外線を使っていることも分かっています。
 普通にモンシロチョウを見た場合,オスとメスの区別が難しいほどよく似ています。
ところが,紫外線に感じるフィルムで撮影してみますと,オスの羽は黒っぽく写り,メ
スの羽は白っぽく写るという,明らかな違いが出ます。
 つまり,同じモンシロチョウの羽にある鱗粉でも,オスのものは紫外線を吸収して,
メスのそれは反射するという,性質の異なりがあることになります。モンシロチョウ同
士ではこの違いを利用して,同性か異性かの判断を空中から行っているようです。
 また,相手チョウの年齢の見当も紫外線で行っているらしいと,という研究報告もあ
ります。
 オスにしてもメスにしても,羽化してから飛びまわった時間が長いほど,羽の鱗粉は
散乱してしまって量が減っています。すると,オスでは紫外線の吸収が少なくなって,
黒から白っぽい感じに,メスでは反射光が少なくなることで,白の輝きが小さくなると
いう現象が起こるとの報告もあります。
 ということでモンシロチョウは,人間には見えも感じもしない,"紫外線による一目"
で,仲間の性別はおろか年齢まで分かってしまうわけです。
 このように,私たちから見ますと超能力としか思えないような機能を,それぞれの昆
虫たちが持っていると思われるのです。彼らから学ぶべきこと,彼らを利用させてもら
うことが,これから増え続けるのは間違いないのです。
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