06a こんにちは昆虫たちよ〈森林害虫〉
〈穿孔性虫〉
一時性害虫としては,クロマツやアカマツの新芽に産卵し,幼虫が新梢の髄部を食害
するマツツマアカシンムシなどのマツノシンクイムシ類や,スギ,ヒノキなどの樹皮下
や髄部に穿入するコウモリガの類があります。
二次性害虫としては樹幹や太枝に穿入する昆虫類の主要構成員は甲虫類です。@キク
イムシ類やカミキリムシ類は樹皮下(形成層及び辺材部の表面)を食害します。A材質
部に深く穿たれた坑道は,材の工芸的価値を著しく損じ,かつその坑道内に変色菌や腐
朽菌の侵入を招いて,木材を内部から変色腐朽させ,材の利用価値を著しく低下させま
す。樹幹穿孔性害虫としては,キクイムシ科,ナガキクイムシ科,カミキリムシ科,タ
マムシ科,ゾウムシ科,ツツシンクイムシ科,ナガシンクイムシ科,キバチ科などが数
えられます。
△キクイムシ類
・樹皮下穿孔性キクイムシ類
キクイムシ科の既知種は世界で約7千種に及び,わが国には約300種が分布します。
この約半数が樹皮下穿孔性です。早春から初夏の候,新成虫はそれぞれの寄生木あるい
は越冬場所から脱出して,適当な衰弱木や丸太などに飛翔し,樹幹の粗皮の割目,樹皮
鱗の下,幹に着生したツタや地衣類の下などから小孔を穿って侵入します。いったん穿
入に成功すると,穿入可能を知らせるフェロモンを発散することが数種のキクイムシに
おいて知られており,同種のキクイムシが多数その樹幹に来襲します。
わが国における主要種としては,マツノオオキクイムシ(カラマツヤツバキクイムシ
),ヤツバキクイムシ,ヒバノキクイムシ,ヒノキノキクイムシ,マツノキクイムシ,
マシノコキクイムシ,カラマツノコキクイムシ,キイロコキクイムシ,エゾキクイムシ,
キソキクイムシ,トドマツキクイムシなどが数えられます。
・材質部穿孔性キクイムシ類
新鮮な伐倒木あるいは伐根などの材部に穿入するキクイムシ類は,その坑道の内壁に
共生菌を培養して食物としている故,一般に「養菌性キクイムシ類」と呼ばれています。
坑道壁は菌によって褐色あるいは黒色に着色されます。@ハンノキキクイムシ,サクラ
ノホソキクイムシ,サカクリノキクイムシ,サクセスキクイムシなどは共同大部屋型,
つまり樹皮又は材質部に穿坑し,材の生長軸と放射軸の方向に長く,左右に扁平な不定
形の部屋を作り,この中で成虫,卵,幼虫,蛹が共に生活します。Aトドマツオオキク
イムシ,イシダキクイムシ,アカマツザイノキクイムシなどは共同トンネル型,つまり
材の生長軸に直角に坑道を作り,ほぼ年輪に沿って数本の分枝坑(水平分枝坑)を有し
ます。産卵は坑道の奥あるいは中間部になされ,親虫,幼虫ともにこの坑道内を自由に
往来して坑道壁の共生菌を食し,この坑道内で蛹化,羽化します。Bナガキクイムシ科
の全部は蛹期個室型,つまり幼虫期には共同トンネル型の生活をしていますが,蛹期が
近づくと,坑道の奥あるいは中間部(それぞれの種により一定)に個室を作り(長梯子
坑),その中で蛹化・羽化します。Cイタヤノキクイムシ,カシワノキクイムシ,ウス
キイロキクイムシ,ミカドキクイムシ,ショーグンキクイムシ,ダイミョウキクイムシ,
タイコンキクイムシなどは幼虫個室型,つまり親虫は水平に分枝した坑道を穿ち,その
壁の上下(材の生長軸の方向)に個室を並べて穿ちます。1個室に1個ずつ産卵し,幼
虫は孵化後もこの室から出ることなく,生長する体形にあわせて室を拡大しますが,最
後まで個の室(幼虫型個室)に留まり,蛹化・羽化します。
養菌性キクイムシ類の親虫は,いずれもこれらの坑道の中で共生菌の培養管理,坑道
内の清掃,換気,温度調整,雨水の流入防止,ダニ類の侵入防止などの作業を行い,幼
虫が成虫になるまで付き添って世話をしています。
・共生菌との関係
養菌性キクイムシ類は材質部に穿孔しますが,食物は木材ではなく,坑道内に培養し
た共生菌です。それ故,新成虫が巣立ちして新たな繁殖坑を営む場合,それまで食物と
していた共生菌を携行する必要があります。大腮などの特定な部分に特殊な空洞あるい
は袋状の器官を持っているので,この器官内に共生菌の胞子を貯蔵携行します。
養菌性キクイムシ類は,単に材に坑道を穿つ害だけでなく,菌による材の変色・腐朽
を招きます。またキクイムシ類が脱出した後の空洞には,各種の腐朽菌が繁殖して,材
を内部から速やかに分解してしまいます。自然界においては森林内の倒木などの分解を
早めて,木材の構成物質を他の生物が再利用できる状態にする時間を短縮する上で重要
な役割を果たしていますが,木材を利用する人間に側からみれば真に厄介な害虫といわ
なければなりません。
△カミキリムシ類
わが国には約1千種を産し,そのうちの約140種が森林害虫として記録され,重要な
樹木害虫が多いです。一般に二次性の害虫で,何らかの原因で樹勢が弱った場合に寄生
しますが,大発生した場合には健全な生立木をも侵害します。
カミキリムシの害は,一般に成虫による害と幼虫による害とに大別できます。成虫は
後食(羽化後の成熟に必要な摂食)のために健全木の梢部を剥皮食害します。このため
樹勢を弱め,時には新梢部を枯死させ,樹形を著しく不良なものにします。産卵は通常
幹や大枝の樹皮になされます。母虫は樹皮に口器で傷をつけ,この中に産卵管を挿入し
て1卵ずつ産卵します。幼虫は若齢の間は靭皮部と辺材部表面を食害するため,寄生木
は樹液の流通を妨げられて枯死を早めます。幼虫は齢期が進むと材部に深く坑道を穿っ
て生活しますので,材は工芸的に大害を被り,かつこの坑道に侵入する変色菌や腐朽菌
のために材質を著しく損じます。台風などの際に生ずる風倒木のうち,幹の途中から折
れる風折木には,カミキリムシの害により材質が変質している虫害木が多数含まれてい
ます。
広葉樹加害する主要種としてはミヤマカミキリ,シロスジカミキリ,ゴマダラカミキ
リなど,針葉樹を加害する主要種としてはムナクボカミキリ,スギノアカネトラカミキ
リ,ヒメスギカミキリ,スギカミキリ,マツノマダラカミキリ,ヨツボシヒゲナガカミ
キリ,ヒゲナガカミキリなどが数えられます。
第二次世界大戦後,アカマツを大量に枯死させていますマツノマダラカミキリの害は,
マツノザイセンチュウとの共生によるもので,極めて特異な例です。
△ゾウムシ類
ゾウムシ科の成虫の口吻は,原則として長く伸長し,側面から見ると象の鼻のような
観を呈します。本科は触角が梶棒状で屈折しないオトシブミやチョッキリゾウなどのグ
ループと,触角第1節が長く伸び柄節となり,それより先の節が鞭状となってL字形に
屈折するグループとに大別されます。前者は樹木の葉,果実,新梢などに産卵してこの
部分を切断落下させ,老熟幼虫は地中で蛹化するものが多いです。後者は短吻群と長吻
群に分けられます。短吻群の幼虫は地中で植物の根を食するもの,枯損木や衰弱木の材
中に寄生するものなどがあり,成虫は葉,芽,樹皮などを食害します。長吻群の生活は
多種多様ですが,茎,芽,葉,樹皮,果実,葉肉などを食害し,あるいは木材内に穿入
するなどの大害を与える種類が多いです。
わが国に産するゾウムシは1千種以上で,森林や用材の害虫は120種ほどです。主要
種としてはオオゾウムシ,ヤナギシリジロゾウムシ,ニセマツノシラホシゾウムシ,マ
ツノシラホシゾウムシ,コマツノシラホシゾウムシ,マツキボシゾウムシ,クロキボシ
ゾウムシ,トドマツキボシゾウムシなどがあります。
[次へ進んで下さい]