12c 森に棲む野鳥の生態学〈森の野鳥の暮らし向き〉
 
〈営巣場所〉
 モズは春になると雄がまず縄張りを持ってつがいを作り,次に雄が雌にいくつかの枝
葉の茂みを案内して,雌の気に入った場所に雄雌共同して巣を造ります。
 シジュウカラは雄がいくつかの巣穴に雌を誘導して,その中から気に入った場所を選
び,雌のみがコケを運んで巣造りをします。雌はまた,営巣を決めた穴以外にも周辺の
数個の穴や巣箱にもはじめに少しコケを運ぶ習性があります。
 アカゲラ,クマゲラなどキツツキの仲間は,雄がいくつかの候補木に小穴をあけて雌
を誘い,そのうち雌の気に入った穴を雄雌共同でほって造ります。
 営巣場所は,ヘビ,ネズミ,イタチや捕食鳥などの天敵に見つかりにくく,接近しに
くいところです。また雨露や直射日光を避けるように造られます。
 自らお椀型の巣を造る(開巣性という)モズ,ホオジロなどの小鳥類では枝葉の茂み
の中に,ワシタカ類やカラスなど中大型の鳥では高い木の枝股部に巣を造る場合が多い
です。コルリ,メボソムシクイなど地上に巣を造る種類では,草むらの根際や枯葉の下
又は崖のオーバーハングの下に造ります。林道,登山道沿いの小崖にはこうした鳥やビ
ンズイ,キセキレイの巣がよくあります。
 自ら木に穴を開け樹洞を造って営巣するキツツキ類では,通直な幹のやや傾斜したと
ころの下側にほります。入口は雨水が入らないように少し上向きに,さらに下方に深く
ほります。
 巣箱によく入るシジュウカラ類やムクドリ類は,自分で穴をほる能力がない(コガラ
はほります)ので,キツツキの古巣や木の裂け目などに営巣します。
 樹種では,針葉樹よりも広葉樹への営巣が多く,これは針葉樹の枝が互生(互い違い
)のため巣を架けにくいからと考えられます。また春先早くから繁殖を始めるキジバト
やモズは,最初に常緑の針葉樹や広葉樹に営巣し,落葉樹は十分繁った後に利用します。
 
〈巣の位置〉
 巣の高さは,地上より2〜3mのところを選好する例が多いです。一方時期により高
さが変わるのもあります。ホオジロやアオジなど相対的に低い位置で営巣する鳥は,春
先の草木がまだよく繁っていない時期には主に地上で営巣し,草木の繁茂につれ営巣高
を上昇させる習性を示します。いずれも上空からの天敵と,風雨,直射日光への備えに
よるものと考えられます。
 巣の位置は,キツツキの例では森林のパッチ状に組合わさった微細環境構造のなかで,
特に巣の前面が開けた場所を好んで営巣しています。アオジ,アカハラなど林縁性の鳥
は,林縁から6m以内に85%が営巣します。これらは巣への飛び込み飛び出しをスムー
ズに行う必要があるからです。
 
    林縁から巣までの距離(富士須走若齢人工林)
 
      林縁からの距離  発見した巣の数
                                                                              
             1mまで            53 個
             2m 〃             39 〃
             3m 〃             38 〃
             4m 〃             31 〃
             5m 〃             35 〃
             6m 〃             21 〃
             6m以遠            36 〃
 
 
森の野鳥の暮らし向き〈採餌の生態〉
 
〈好む餌〉
 餌の内容については成鳥の調査報告は少ないが,雛の場合は親が運んできた瞬間を直
接観察する方法,のど首に輪をはめて雛が飲み込めないようにした餌を取り出す方法,
巣の回りに残された残骸を調べる方法などで調べます。
 シジュウカラ類をはじめ多くの鳥は,主にガなど鱗翅目の幼虫を好みます。繁殖最盛
期の初夏には,これらの幼虫は爆発的な生産量となり,栄養と水分に富んでいます。普
段は木の実を好むムクドリ類や,穿孔性の幼虫を好むアカゲラなどでもガの幼虫を多く
雛に与えます。
 キビタキ,サンコウチョウ,コサメビタキなどいわゆる夏鳥のヒタキの仲間は,アブ
ハエ(双翅目)やガの成虫をよく雛に与えます。これらの鳥はもともと林内空間で餌を
とる(フライキャッチングという)ことが得意であるとからです。
 アカハラ,クロツグミなどのツグミ属は地上にいるミミズをよく持ってきます。雛に
持ってくる鱗翅目幼虫も地上近くにいるヨシカレハや,蛹化寸前で樹上から落下した老
熟幼虫が多いです。
 餌の内容は時期的に変化します。シジュウカラやツグミは5〜6月には緑色の幼虫が
多いが,7月以降になるとシジュウカラはコロギス,クコツクミはミミズの量が格段に
多くなってきます。ヒヨドリでも7月に入るとそのころから発生するセミの成虫が多く
なってきます。またヒヨドリやコムクドリは,クワやサクラの実が熟す時期になるとそ
れを多く持ってきます。
 
    滝沢における育雛餌の季節変化%
 
               シジュウカラ  クロツグミ
            6月  7月    6月  7月
 
  鱗翅目幼虫 77.5  32.4    19.6  13.6
   〃 蛹   0.7   -       -     -   
   〃 成虫  6.1  10.8     1.2   1.7
  双翅目成虫  2.1   -       3.1   1.7
  直翅目成虫  -    43.2     -     -   
  他の昆虫   6.8   5.4     2.5   6.8
  クモ     6.8   8.1     1.2   -   
  ミミズ    -     -      52.8  76.3
  果実     -     -      19.6   -   
 
 カワラヒワの調査報告によれば,一日に十数回親がソノウのなかに沢山の半消化の種
子を詰めてきて与えます。キジバトなどハト類は,種子穀物等の植物質を親が好んで食
べ,それをソノウ内壁にピジョンミルクに形成させて,一日に十数回雛に与えます。雛
が大きくなると半消化のまま与えます。
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