31a 葛のお話〈クズの生理生態〉
〈茎の特性〉
クズの茎(つる)には当年生茎と多年生茎があります。当年生茎は当年発達した茎で
あり,多年生茎は越年生茎ともいい,1回以上越年した茎であって,1回越年した茎を
1年生茎,2回越年した茎を2年生茎・・・・・・といいます。
クズの茎は外観から二つの型に区別されます。地表をはって進む「ほふく性茎」(ラ
ンナー)と,物に触れると立ち上がって巻き付き(左巻き)分岐しやすい「直立性茎」
とがあります。しかし,これらは元来性質の異なる茎ではなく,ほふく性茎もほふくし
て伸長しているうちに,木本類などに触れますとこれに巻き上がり,直立性茎となりま
す。また,直立性茎も陽光を求めて巻き上がり,低木類やスギ,ヒノキなど高木類の樹
冠層の上に出ますと,その上をほふくして伸長し,さらに茎を伸ばして勢力を拡大し,
ついにはマントを覆ったような状態となります。
当年生茎は節ごとに,3出複葉をもつ1本の長い葉柄をつけ,ところどころの節から
は葉柄のほかに新しい茎を出して伸長します。株頭カブカシラからの茎は1〜数本出ますが,
節から分岐する茎は一つの節から1本又は2本出るのみです。しかし,多年生茎が分岐
している節からは3本くらい出ることがあります。
〈茎の伸長量及び地上部諸器官の現存量〉
茎の伸長の最も激しい7月下旬から8月上旬の間には,よく伸びる個体は1昼夜に25
〜30pも伸長します。月別伸長量の最大は7月に現れ,1日平均10p伸長するという報
告があります。
関西地区での調査によりますと,株の大きさ3〜5p程度の1株からの茎の総延長は,
40mに達した箇所もあったとの報告があります。
また,クズ繁茂地1u当たりの茎数,長さ(延べ),茎葉の生重量は7月調べによる
と,少ないところで8本,9m,180g,下刈りをほとんどしなかった5年生造林地では
58本,56m,1800gを示し,平均的なところではおよそ16本,17m,470gくらいとみられ
ます。
茎の長さが1u当たり14mくらいの造林地ですとどうにか歩けますが,20mを超えるよ
うなところですと,ほとんどクズばかりのようになり,その中を歩くことは難しく,高
さ1mくらいの造林木はクズの中に埋もれてしまいます。
茎の直径は当年茎よりも1年生茎,それよりも2年生茎の方が太く,しかも1年生茎
と2年生茎の差は大きいです。山陰地方などでは,木質化した多年生茎が床柱になるほ
ど巨大に生長した直立性茎を見ることがあります。多年生茎は6月からどの年齢のもの
も細くなり,8月以後に急速に肥大します。この変化は,多年生茎が貯蔵器官としての
役割を果たしていることを推測させます。しかし当年生茎の7月から8月にかけての直
径の減少は,多年生茎の場合と異なり,夏期の高温のために一時的に生長が鈍化するた
めと考えられます。
クズの葉面積については,繁茂地での1個体の葉面積が10月調査で約5〜8uあった
との報告があります。
〈主根〉
クズの根系は株から地中深く発根している主根と,茎の節から発根している節根とが
あります。
主根は地中深く貫通していますので,その形は中程の肥大した紡錘形をし,塊根とも
いわれます。この紡錘体は株から1〜2本地中に進入し,さらにその紡錘体からやや細
めの紡錘体をいくつか分岐して発根しています。これらの主根は養分を多量に貯蔵して
おり,昔からこれを秋に掘り採って澱粉を製造する,いわゆる貯蔵根です。これらの紡
錘形をした根部からは,さらに若干の細根を出していますが,この水分や養分を吸収す
る機能をもつ細根は極めて少ないのが特長です。調査した限りでは,特に土壌の上層に
ある根部には細根が少ないです。
クズはマメ科植物ですが,すべてが根りゅうを付けているとは限らないようです。
次に主根の大きさについて4月,5月の掘取調査した結果,大きいもののうち一つの
株頭直径7pの主根では根長153p,最大径32o,生重量830g,もう一つの株頭直径9
pのものでは根長155p,最大径69o,生重量2,850g,小さい方の株直径3p,根長154
p,最大径19o,生重量240gでした。この調査結果では,紡錘体の直径の大小にかかわ
らず,根長はほとんど同じでした。また,主根の小さい方の細根が多いのが目立ちまし
た。
〈節根〉
節根は茎の節から発根したものですが,支根あるいは分根ともいいます。節根は土中
へ直接根をおろす場合と,空中へ気根として発根する場合の二つの型があります。前者
はほふく性茎の節が落葉などに覆われたり,密生したササや草本の中で湿度が高い状態
にありますと,節から発根します。気根の状態で節発根するのは,湿度の高い林内の直
立性茎や,雑草やササの中をはっているほふく性茎で,接土していない節から発根して
いるものであり,乾燥のため節根部分が枯死しているものも見られます。この場合地表
面と節との間隔が3p以下ですと,そのまま地中へ根を伸ばすすことができるようです。
節根は1〜2年生の茎から発根する場合が多いです。また,発根する節の間隔は不規
則であり,発根条件が整っているようにみえても,数節も発根のない場合もあります。
茎を1節ごとに切断して上接させた場合は半数以上の節から発根するようです。実験畑
での発根の最適条件は,日平均気温20〜25℃,相対湿度70〜80%,土壌水分は湿〜過湿
でした。
節からの発根は6月中旬より始まり,6月下旬〜7月上旬に最高となり,7月下旬〜
8月上旬には一時休止し,9月上旬より9月下旬まで発根活動を続けるとの報告もあり
ます。
節根の大きさは5月の調査で直径1o未満〜8oで,長さは20〜80pでした。直径8
oくらいの節根は紡錘体を形成しはじめており,将来,茎で連結した主根になる可能性
が大です。1節からの発根数は2〜8本であって,直径の大きい節根は発根数が少なく
2〜3本でした。
このように節根は主根のように大きくはありませんが,クズは葉数が多く蒸散の激し
い植物ですので,水分を補給するため主根とともにクズの生育にとって重要な役割を果
たしているものと考えられます。2〜3年生までのクズですと,茎を引っ張ると節根も
一緒に抜けてきます(つる返しといいます。)が,これによってクズの勢力がかなり減
退します。
〈TR比〉
クズの地上部と地下部の重量比(RT比)を調査しますと,9月で0.9です。
セイタカアワダチソウ(9月) 3.4
チシマザサ(8月) 2.6
ススキ(8月) 0.5
オギ(8月,9月) 0.9
上に記した植物は,クズの多年生茎に相当する器官の役目をする部分を地下部にもっ
ていますので,クズの多年生茎を地下部として計算しますと,0.3〜0.5となります。こ
の計算では,次年度に貯蔵器官となる当年生のほふく性茎はまだ地上部となっています
ので,この器官を地下部に加えて再計算とますと,TR比は0.2〜0.3となります。この
結果から,クズは極めて貯蔵器官の多い植物体であり,このことが繁茂の源泉となって
いるといえましょう。
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