03 植物生理学2〈植物生理学とは〉
植物生理学2〈植物生理学とは〉
〈植物の栄養〉
△植物における栄養とは
①植物の栄養上の特徴
緑色高等植物は特徴的な軸の発達した高等な体制をもち,また,葉緑体によって光合
成を行う自栄養的な生物です。その体制及び形態形成は,多糖類からなる細胞壁によっ
て定められ,固定されています。また,運動性をもたないため,環境要因の影響を受け
やすいため,その変化によく対応できる能力を備えています。
植物は有機化合物を栄養として利用することはできますが,自栄養的ですので,自然
状態ではふつう有機化合物を接種しません。植物は根から水を吸収し,また水に溶けて
いる無機塩類を吸収します。また,葉に達した水と,空気中から吸収したCO2から太
陽エネルギーを利用して炭水化物を合成し,これと根から吸収した無機塩類や無機窒素
化合物からいろいろな有機物を合成し,植物体の構築や代謝活性の駆動に用います。ま
た,植物は動物にとって有害な無機のアンモニアを窒素源として利用できます。
植物は動物とは異なり,消化,排出の機能をもちません。植物は細胞内に大きな液胞
をもち,これを満たしている液胞液には糖や無機塩類,その他の代謝産物が溶けていま
す。また,植物はその構造の上で,若 → 老の齢の勾配をもち,老化した器官の分解産
物を若い器官が吸収し,その構築に利用します。さらに落葉などによって老化器官を放
棄します。これらの特徴が動物の消化,排出に匹敵する生理的な機能なのです。このほ
か,植物の要求する無機元素も動物のそれとは異なります。
②植物における栄養の転流
光合成によって生成した同化産物は葉から運び出され,生長点を中心とした体の構築
やエネルギー利用系に用いられます。これら栄養分の転流や水の流れ,すなわち蒸散流
のため,植物体内には通導組織が発達しています。通導組織はシダ植物と種子植物では
木部と篩シ部からなる維管束です。
葉は茎頂において規則的に形成されますので,植物体では葉は茎のまわりに規則的に
配列し,植物の種類により特徴的な一定の葉序をつくっています。葉の通導組織は葉脈
を構成している維管束です。これは葉柄の維管束と連絡し,葉柄の維管束は茎の維管束
と連絡しています。根にも維管束があって,茎の維管束と複雑に絡み合って連続してい
ます。維管束と,これに関連した基本組織を中心柱と呼び,双子葉植物と単子葉植物で
は茎の中心の構造が異なります。一般に前者は維管束が茎の中心,すなわち髄を囲んで
規則的に配列した中心柱の構造,すなわち真正中心柱をもち,後者は髄に維管束の散在
した不整中心柱をもっています。また,根の中心柱は篩部がいくつかに分かれて木部と
交互にならぶ放射中心柱です。維管束を構成する木部と篩部はそれぞれ主として導管と
仮導管,及び篩管からなっています。導管は被子植物に特有の木化した通導組織で,す
べての維管束植物に存在している仮導管とともに細胞質の消失した死んだ細胞からなり,
隣接する細胞の上,下部が連なり,葉から根までパイプになっています。導管,仮導管
はいずれも水液上昇のための通導組織ですが,前者では細胞壁が2次肥厚しているため,
多量の水液の縦方向への上昇のために主として機能しています。これに対して後者は縦
方向だけでなく,側壁に孔を多数もつため,横や斜め方向にも水を通し,仮導管近辺の
細胞に水液を供給する役目を果たしています。
篩管は生きた細胞からなり,細胞同士の縦の隣接部には細胞壁に多数の篩板シバンがあ
って,篩板には直径0.5~5μmの多数の篩孔があります。そして,隣同士の細胞は篩孔
をとおる原形質によって連絡されています。篩管は主としてタンパク質や同化産物なと
の有機化合物の通導をつかさどっており,篩管を満たす篩管液は一般にややアルカリ性
で,多数のタンパク質を含んでおり,絶えず隣接する細胞から細胞へと流れています。
これら,植物の通導組織を含む中心柱の構造は,根の場合は比較的一様ですが,葉の
場合は植物の種類によってかなり変化します。いずれにしろ,軸の発達した植物体にお
ける水や同化産物の輸送は,このように著しく発達した維管束系によって行われていま
す。
△植物と水
①植物体における水の流れ
水が生命の維持にとって不可欠であることはいうまでもありません。水分子の基本的
な性質は植物の生存にうまく利用されています。第1に,水分子は構造的に四面体をな
し,2個の水素原子のプラス電荷と,1個の酸素電子のマイナス電荷とがつながってい
ます。水素原子のプラス電荷がやや勝っていますので,水分子の水素原子と弱いマイナ
ス電荷をもつフッ素,酸素,窒素原子などの間に水素結合を形成します。この水素結合
が核酸やタンパク質の構造上極めて重要な役割を演じています。第2に,双極子である
水分子が高い誘電率をもっているので,電解質を溶かしやすい性質があります。第3に,
水は比熱が大きいのでその温度変化には大量の熱の出入りを必要とします。したがって
水を大量に含む生細胞は熱的に安定です。第4に,水は蒸発のため大きい潜熱をもって
います。このため,水の蒸発は植物に対して冷却効果をもちます。第5に,水は大きい
表面張力と凝集力をもつため,導管を通る水柱は長く引っ張られても水分子間は切断さ
れません。第6に,水は4℃で密度が最大となるため氷よりも重く,このため土壌が凍
っても中の根は氷によりあまり傷つれられずに吸水できます。
成熟した植物細胞はその容積の大部分を占める液胞液の浸透圧に基づく拡散圧欠損に
よって水を吸収して生長し,浸透圧と膨圧が平衡し,拡散圧欠損が0に達するまで吸水
を続けます。植物体に対する水の供給は,大部分が根によって土壌中から行われます。
導管あるいは仮導管を通って上昇し,その過程で水は植物体の各部分に供給されます。
上昇した水は最終的に葉から蒸発し,この蒸発によって植物体の温度の調節も行われま
す。
いいかえますと蒸散は,葉の表皮にある気孔に接した内部の葉肉組織の細胞表面から
水が水蒸気として失われ,これによって隣接する細胞から水を引き出します。この結果,
葉脈,葉柄の導管,そしてこれらに連なった茎の導管から水を引き上げ,根の導管,柔
組織,そして最後に表皮,根毛に吸引が及び,これによって土壌中の水を吸収するとい
うことになります。
②水ポテンシャル
根毛細胞が土壌から水を吸収する場合や,隣接する細胞の一方から他方に水が移動す
る場合など水の移動は水ポテンシャルの落差に基づいて自然に進行します。すなわち,
水の移動は水ポテンシャルの高い方から低い方へ,平衡に達するまでおこります。
③蒸散
葉における水分の蒸散は主として気孔を通じておこり,クチクラ層を通じておこる蒸
散は小さいです。蒸散は昼間盛んで,夜はほとんど停止します。蒸散を第一次的に規定
しているのは,温度よりも光照射です。
蒸散に影響する内的要因としては,気孔の開度や葉の大きさ,形のほか,クチクラ層
の厚さがあり,外的要因としては光照射のほか,風の状態と強さ,水蒸気圧,温度があ
ります。
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