20a 森林よ永遠に〈森林を守る〉
〈環境指標としての機能〉
△環境指標とはなにか
植物は,動物と違って移動性がありませんので,そのところの環境条件に適さないも
のは成立しませんし,いったん成立してあとで環境が変化しても,その環境条件に甘ん
じて生活することになります。
樹木が環境指標として重要性は,次のとおりです。
@個々の樹木があらわす特異の反応から,すでに多くの指標植物が認められています。
A急激な環境変化による被害は比較的容易に検出できますが,慢性的被害,すなわち
集積中毒的被害はなかなか検出できませんが,樹木は,年々の被害の集積として生育減
退,早期老化,生理現象不全などの症状によって,如実に被害程度を表現します。
B環境悪化の原因となる個々の因子は測定できますが,その総合的影響を把握するこ
とは難しいです。樹木は,その生体に及ぼした総合的結果を表現します。
△自然植生と環境
一定の環境因子について敏感な植物があり,その植物の存在や生育状況によって環境
因子が判定できる場合,その植物を指標植物と呼んでいます。
例えば,アカマツ林は土壌が乾燥していることを示し,ヤチダモ林は土壌水分の多い
こと,アメリカのバンクシャマツはその球果は火にあたって発芽しますので,その森林
があるところは過去に火災があったことを示します。
一般にクマイザサの密生は肥沃なところ,カシワとミヤコザサの林地は地力が低いこ
との指標となります。
△大気汚染に対する指標
亜硫酸ガスは大気汚染の主要因子ですが,これに対する樹木衰退の程度については,
地域によってばらつきがあります。
一方,汚染物質を樹木に接触させた調査では,ドロノキ,フサザクラ,ヒュウガミズ
キ,レンギョウなどは感受性の強い樹種です。
〈水資源を確保する機能〉
△水を貯蔵する森林
森林に降った雨の一部は,しずくとなって落下,又は幹を伝わって地面に落ちます。
地表には枯れ葉や枯れ枝,コケ類などが重なり,その下にはこれらが腐ってできた柔ら
かい腐植に富んだ土があり,地面に達した雨水はこうした海面のような柔らかい堆積物
や土の中に浸透していきます。
森林の土は柔らかく,土の粒子の間に隙間が多いので,浸透した水は,こうした隙間
に貯蔵されます。
そのことによって下流域への急速な増水を防ぐとともに,また蓄えられた水は徐々に
ろ過されながら流下しますので,河川の水はきれいに澄んで,枯れることはありません。
△土砂の流出を防ぐ森林
森林で山が覆われていますと,樹木と土壌を含めた森林それ自体が,水を一時貯留す
る海綿のような働きをするのと同時に,木の根は網の目のように土中に分布し,土や石
をしっかり抱き止めて,流れ出るのを防ぎます。
△水害を防ぐ森林
土砂の流出を防ぐことが,とりもなおさず水害を防ぐことになるわけですので,治山
工事のみに頼らず,森林を造成することこそ,根本的な対策です。
〈防災的な機能〉
△風を防ぐ
森林の防風機能は古くから知られており,屋敷,耕地の周囲や海岸に防風林が造成さ
れてきました。
防風林は,防風林の風上では樹高の10倍,風下では樹高の30倍の範囲の風が制御され
ます。
海岸の防風林は塩分を吸収する効果がありますので,ある程度の幅が必要です。
△雪の害を防ぐ
鉄道の防雪林や雪崩防止林があります。適する樹種は,北海道ではトドマツ,ドイツ
トウヒ,カラマツ,本州ではスギ,カラマツ,ヒノキ,アカマツ,ケヤキ,ニセアカシ
アなどが多く用いられております。
△火を防ぐ
住居を守る屋敷林や生垣,地震など都市火災を予防する公園樹の役割が大きいです。
防火樹としては,発火しにくい防火性のものと,燃焼しても再生する力,耐火性に優
れたものが望まれます。暖地ではカシ類,シイ類,サンゴジュ,ヤマモモ,イチョウ,
寒地ではカシワ,ナラ類,アベマキ,カラマツが優れ,下木としてはアオキ,ヤツデ,
ユズリハ,ナナカマドなどです。
〈レクリエーションの場としての機能〉
△野外レクリエーション
野外レクリエーションの中で最も望まれるものは,野生生物との接触です。美しい花,
巨大な樹木,樹海,小鳥,小動物,昆虫類,魚類などが好まれる対象です。
△レクリエーション管理
レクリエーションとして利用される森林は,急激な伐採を避けたり,後継林を育てた
り,人工の跡が分からないように工夫したりして,絶えず緑を絶やさないようにする必
要があります。
また,特殊な樹木や群落,野生鳥獣などの天然記念物が保存されているところや,歴
史と結びつきのある城址や社寺林など,ハイキングの拠点にもなります。
このほか,遊歩道の整備,案内所(板)・宿泊・休憩所などの設置,ゴミ処理対策な
どを忘れてはなりません。
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