17 ジーンバンク事業開始〈巨樹,名木を次代へ引き継ぐ〉
ジーンバンク事業開始〈巨樹,名木を次代へ引き継ぐ〉
〈巨樹,名木の遺伝資源保存事業を開始〉
樹齢三千年の楠などの天然記念物をクローンclone化する巨樹,名木の遺伝資源保存
事業は,農林水産省のジーンバンクgene bank事業の一環として,林野庁林木育種セン
ター(水戸市)が中心となって,平成5年度から4か年,130種類の国指定天然記念物
の樹木の遺伝子を保存することとなりました。
1 遺伝資源としての天然記念物とその活用
天然記念物に指定されている巨樹・名木は長寿命性,樹形,枝の形態や花果の着性な
ど遺伝的特性も通常の樹木と異なっており,その特異性から学術上価値が高く,遺伝資
源としても貴重なものです。
このような天然記念物の遺伝子は,健全な森林を達成するために必要な遺伝的素質の
改良(品種改良)の材料として,また,植物学,遺伝学,医学・薬学などの発展のため
の遺伝,生理,成分等の各種の学術・科学の研究材料として活用が期待されています。
2 巨樹,名木の遺伝資源保存事業の内容
農林水産省では科学技術の発展にともなう遺伝資源の利用の増大にそなえ,国内外か
ら多様かつ貴重な遺伝資源を確保するため,植物,動物,微生物,林木及び水産生物を
対象にジーンバンク事業を実施しています。
このうち,林木育種センターが林木遺伝資源部門を担当し,国指定天然記念物の樹木
の遺伝子をセンター本所及び各育種場の遺伝資源保存園に保存するものです。
平成5年度において保存に着手する主な天然記念物は別表のとおりです。
3 天然記念物の保存への寄与
天然記念物の巨樹・名木は,高樹齢のものが多いため,樹勢が衰退しているものや自
然枯死,病虫害や気象害などを受けて枯死した例もみられます。
そこで,本事業により予め遺伝子の保存を図ることで,各地で永年親しまれてきた天
然記念物の後継木の確保が可能となります。
このため,本事業の実施にあたっては文化庁の協力が得られることとなっています。
担当:林野庁研究普及課
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「別表」
平成5年度において保存に着手する主な天然記念物
樹種 天然記念物の名称 所在地 樹齢 由 来
イチョウ 長泉寺の大イチョウ 岩手県久慈市 1100 昭和22,23年の台風により
主幹の一部を失い,日本一の
座を降りましたが,古来,日
本一の大イチョウとして名を
馳せていたわが国屈指の樹で
す。
ケヤキ 東根の大ケヤキ 山形県東根市 1000 鎌倉時代の武将小田島長義
が1347年に築いた小田島城本
丸跡にあり,その昔,「ちち
槻」「はは槻」のケヤキの巨
木が2本ありましたが,1885
年に「ちち槻」が枯れて,今
残るのは樹高35mの「はは槻」
で,東の横綱といわれていま
す。
カヤ 了玄庵のツナギガヤ 新潟県田上町 760 越後七不思議の一つに数え
られており,種子に穴があり,
葉が年ごとに表裏反転する奇
樹です。
ケヤキ 松之山の大ケヤキ 新潟県松之山町 1900 2株が癒着しているように
見えますが実は1株で根の露
出が甚だしく,坂上田村麿が
東征のとき馬を繋いだので「
馬置の木」と呼ばれています。
クスノキ 川古のクス 佐賀県武雄市 3000 聖武天皇の頃,行基上人が
根元の堂に泊まり,一夜で高
さ10尺余りの観音像を幹に彫
ったと伝えられます。明治初
年頃,山伏のため削り取られ
たといいますが,今でもその
像の大分の輪郭を止めていま
す。
スギ 女夫木の大スギ 長崎県諌早市 1000 もともと大小の2株であっ
たのでこの名がありますが,
火災のため大きい方の株を失
って,現在は1株です。昭和
36年8月にも枝に落雷を受け
ました。
イチョウ 下の城のイチョウ 熊本県小国町 1000 従三位小納言清原正高を慕
うある貴婦人が,想う正高に
会えず流浪の旅を続けた末,
絶望して滝に身を投げました。
一行がこの地に着いた時に乳
母が病没しましたので,墓を
築き傍らに公孫樹を植えて祭
ったのがこの樹です。樹皮を
煎じて飲むと乳がよく出ると
いわれ,「チコブサン」と呼
ばれています。
[次へ進む] [バック]