09 森林火災とその防止
森林火災とその防止 資料:林業技術ハンドブック
(森林総合研究所 後藤義明氏)
T 発生原因
森林火災の出火原因は「たき火」や「タバコ」などの火の不始末によるものが過半数
を占め,ついで「火あそび」,「マッチ・ライター」の順になっている。わが国で発生
する森林火災のほとんどは人為的な原因による。
U 種 類
1 地表火
地表の落葉・落枝や枯れた草本,あるいは生きた草本,低木類などが燃えるもので,
森林火災の中では最も多く発生する。火勢が強くなると樹幹火や樹冠火に移行する。
2 樹冠火
樹木の樹冠(枝葉)が燃焼するもので,大部分は地表火から燃え移る。油脂分の多い
スギやヒノキ,アカマツなどの針葉樹が危険である。いったん樹冠火になると消火は大
変困難となり,被害も甚大なものとなる。
3 樹幹火
樹木の幹が燃えるもので,枯木や大木の空洞が危険である。
4 地中火
地中にある泥炭層,亜炭層その他有機物層が燃えるもので,空気の供給が少ない地中
のため,火勢は弱く延焼速度も遅い。わが国では北海道などでみられる。
V 危険期
南から北へと細長い形をしているわが国では,森林火災の危険期は,初冬に日本の南
岸沿いの地方から始まって次第に北上し,初夏にまで及ぶ。平均すると1月から5月に
かけてが多く,中でも3月が最も多い。この時期に森林火災が多いのは,落葉・落枝が
地表に積もり,下草も枯れているうえに降水量が少なく,空気が乾燥し季節風が吹くな
ど,火災が発生しやすい気象条件が重なっていること,春になると行楽客が多数入山し,
タバコやたき火の不始末が増えることによる。気圧配置でみると10ha以上の大火災は,
日本の南部に高気圧があり,日本海に低気圧や前線が通過する,いわゆる南高北低型の
場合に発生しやすい。
W 気象条件
各種の気象要因のうち森林火災の発生・拡大に深い関係をもつのは,降水・湿度・風
の3種である。
1 降水
降水により可燃物は含水量を増し,火災の発生・延焼を防止する。また降水は最も効
果のある消火剤である。降水中あるいは降水直後の地被物(落葉・落枝)の含水率は60
〜70%に達するが,降水直後に地被物は表面から乾燥し始める。地被物の量が多い場合
には,地被物内部は表層部より数時間遅れて乾燥する。降水の後,晴天で乾燥した日が
続くと,地被物の含水率は20%にまで低下する。降水量が5o以下では翌日,10o以下
では3日後には地被物は危険な状態となる。とくに火災危険期の降水特性は,森林火災
の発生・拡大を左右する重要因子である。
2 湿度
湿度は空気中の水分量を示すもので,落葉など吸湿性の高い可燃物の乾燥と深い関係
をもっている。湿度60〜50%のときは付近の燃えやすいものだけが燃え,延焼速度は遅
い。湿度が40〜30%になると延焼速度は速くなり,30%以下では樹冠火に発展する危険
が生ずる。また,木材の含水状態を示す指数として知られる実効湿度も火災の発生・拡
大と関係があり,実効湿度が60%以下になると火災発生の危険が大きくなり,50%以下
になると大火になる危険がある。
3 風
風速の大小は森林の可燃物の乾燥を左右するだけでなく,発生・拡大延焼・飛火など
火災の動態に大きな影響を及ぼす。冬季の強い季節風は,山地では複雑な山風・谷風と
なり,火災時の熱気流と加わって非常に危険な状態となる。また,急変する前線通過時
の風は消火の妨げになるばかりでなく,大きな事故の原因となる。
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