31a 身近な植物群落〈植物群落の相観と区分〉
〈日本の植生帯〉
△植生帯の細分
前述の世界の植生帯を日本列島にあてはめてみますと,本州の中央部から南は常緑広
葉樹林(暖温帯多雨林),それより北で北海道中央部までは落葉広葉樹林です。北海道
の北半分は北方針葉樹林の植生帯に含まれています。
視野を日本列島に限ってみますと,その立地条件などからさらに植生帯の細分化が必
要となります。
・常緑広葉樹林
従来,日本の常緑広葉樹林帯を,沖縄や小笠原諸島に熱帯や亜熱帯に共通する植物群
落がみられますので,この地域を亜熱帯の植生帯とし,北部を暖温帯として二分してい
ます。
ところが相観においては違いが認められませんので,本稿では全体を暖温帯として扱
います。沖縄や小笠原諸島などの,熱帯からくさびが打ち込まれたように現れる熱帯性
の植物群落は,別に取り上げることになります。
・中間温帯林
中間温帯林は,常緑広葉樹林帯が落葉広葉樹林帯に推移するところにあたる各地で,
モミやツガを主とする森林の存在が知られています。そこでこれをモミ林帯,モミツガ
林帯などの名称で一つの植生帯とすることがあります。
ところが当該各地の推移帯の実態は一様ではないので,暖温帯と冷温帯の中間にモミ
やツガの植物群落があることとして,これを中間温帯林とします。
・落葉広葉樹林
落葉広葉樹林帯は比較的単純で,北限は北海道渡島半島までで,気候的には冷温帯に
あたります。
・汎針・広混交林
北海道の大部分の低地には落葉広葉樹林がみられ,同時に針葉樹林もありますので,
この地帯を汎針・広混交林帯として冷温帯の一部とします。
・北方針葉樹林
以上の結果,この林帯は北海道の北東部の狭い範囲にのみ分布することになります。
△植生帯の水平分布と垂直分布
水平分布は,緯度方向に推移する植生変化で前述のとおりです。
垂直分布は高度に伴うもので,その植生帯は普通次のように呼ばれます。
丘陵帯:常緑広葉樹林が成立し,一部に中間温帯林
山地帯(低山帯):落葉広葉樹林が成立
亜高山帯:針葉樹林が成立
高山帯:高山ツンドラが成立
△植生帯と温度要因
日本の森林帯の分布と,気候要素(温度)の対応関係は,年平均気温,年較差,特定
月(例えば最寒月)の平均気温や積算温度のような気候値と,植生帯あるいはそれを代
表する植物の分布域を比較することで検討されています。
△植物群落の成帯性
地球的にながめた場合,気候帯,植生帯とほぼ平行した分布が土壌にも認められてい
て,そのような土壌を成帯土壌と呼んでいます。成帯土壌は排水がよく,一般に母岩を
選ばず,気候の影響のみを強く受けながら発達しています。成帯性の植物群落はこの土
壌を立地にしていますので,気候の変化がない限り永続性をもっています。つまり気候
的極相群落です。
〈植物群落の種組成と階層構造〉
△植物群落の階層構造
例えばイスノキ林の植生断面をみてみましょう。イスノキ,アカガシ,ユズリハ,ウ
ラジロガシによって構成される最上部の層と,イスノキの若木とともにサザンカやシキ
ミがつくる中間の層,及び密生する低木の層を視覚的の見分けることができます。高さ
で分けますと最上層と中間層の境界は12〜13m,中間層と低木層の境界は3〜4mです。
このように,森林の階層構造は,高木層,亜高木層,低木層,草本草のように分けます
が,境界の高さは群落によって異なります。
各階層の葉群が,地表の面積を覆っている率%を評価し,これを植被率と呼んでいま
す。縦軸に群落の高さをとってこれを階層に区切り,横軸を植被率で表現したものを階
層模式図といって,群落の階層構造を示すのに使われます。
△植物群落の種数-面積 曲線
植物群落をある面積の枠に区切り,その中に出現する種の数を数えます。枠を順次大
きくしながら種の変化(増加傾向)をみていきます。
縦軸に種数,横軸に面積とし,描かれた曲線を種数-面積曲線といいます。枠の面積
の増大とともに,はじめは種数は急激に増加しますが,ある面積に達すると増加度合い
が急減し,種数が増加しなくなります。そのときその群落の基本的な種はすべて出そろ
ったことになりますので,この面積のことを群落の最小面積といいます。
△群落測度
群落測度とは植物群落を測る,いわば物差のことです。
・密度:単位面積当たりの個体数
・頻度:調査した全枠数に対してある種を含む枠数の百分率
植物群落の類型化を主な目的とする調査に使われる測度は被度,群度,常在度です。
・被度:ある植物の地表面に対する投影面積ですが,これを枠面積に対する百分率で
示し,種ごとに次の階級で表すブロン・ブランケの尺度が普通に使われます。
被度階級5:植物体が地上の75〜100%を覆う
〃 4: 〃 50〜75% 〃
〃 3: 〃 25〜50% 〃
〃 2: 〃 10〜25% 〃
〃 1: 〃 1〜10% 〃
〃 +: 〃 1%以下 〃
・群度:植物群落内で,種がどのような集合状態で生育しているかを示す尺度です。
群度階級5:カーペット状に一面に生育している。
〃 4:大きな斑紋状。カーペットのあちこちに穴が空いているような状態
〃 3:小群の斑紋状
〃 2:小群状
〃 1:1本のみ生えている。
・常在度:いくつかの調査例を取りまとめ,総合化していくときに使われる測度で,
ある種が出現する調査例の,全調査例に対する百分率です。
常在度クラスT:常在度百分率1〜20%
〃 U: 〃 21〜40%
〃 V: 〃 41〜60%
〃 W: 〃 61〜80%
〃 X: 〃 81〜100%
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