24 不老長樹マニュアル〈土壌・気象の異常〉
〈土壌の異常に起因する枯損〉
△健全な土壌の物理的条件
土の中は固体による固相,及び液相と気相の三つに分けられます。雨が降りますと雨
水は土の中に浸透し孔隙から気相を追い出して,液相の占める容積が多くなり,気相は
小さくなります。
植物にとってはネ 孔隙率の大きい土壌ほど空気の量や養分を含んだ水の量が多く,根
が呼吸し易く,また栄養も多く採ることができて生長や樹勢を維持するのに有利です。
森林など孔隙率の多い土壌は足で踏んでみてもふかふかした感じで弾力性があります。
孔隙の大きさが直径0.1o以上あれば,孔隙の中の水や酸素は自由に入れ替われます。
山林の古くて深い土壌は有機質が多く,透過性のよい土壌となっています。また,土壌
の下には,水はけのよい透水層があることも必要です。
土壌の湿潤の適応については,カラマツやアカマツは乾燥に強く,ヤナギ類やメタセ
コイヤは池の水の中など湿潤なところでもよく生長します。
△土壌の過湿障害とその対策
巨樹などでは,時代の変化とともに,周囲の排水状態が悪くなっている場合がありま
す。このような場合は,排水をよくして昔の状態に戻してやる必要があります。
例えば,樹冠下の土壌全体を20〜30p掘り下げ,砂と堆肥を等量に混ぜた土を敷き詰
め,さらに20〜30pをかさあげしておきます。あるいは,50pくらい掘って不透水層を
取り除く暗渠を設けます。
△土壌の乾燥障害とその対策
・土壌乾燥の原因
水分の補給源が絶たれて土壌が乾燥する例としては,周辺の道路の舗装化,付近にあ
った水路のコンクリート化,地下水位の低下などがあります。
・道路工事その他による水補給不足対策
樹木の根は,その樹の枝の先端まで伸長し,先の方へ行くほど活発に養分を吸収した
り,呼吸したりしています。その部分の上を道路舗装するためには,大部分の根を切断
することとなりますので,このような道路舗装は差し控えなければなりません。
公園などの樹木の根の周囲に芝生を植えることは,かえって芝生が水分を吸い上げて
しまうので好ましくありません。このようなところでは,玉砂利にしてスプリンクラー
で水を撒いたり,地下にパイプを敷いてタイマーで水を補給するのがよいでしょう。
△土壌の踏み付けによる被害とその対策
・踏み圧による土壌構造の変化
神社,仏閣,公園,道路脇などノ土壌は,地表から20pくらいまで緊密化します。表
層には砂土のような細かい土が著しく多くなり,孔隙量が少なくなります。したがって
液相,気相ともに小さくなり,土壌は乾燥状態になり,土中に棲む微生物や小動物は激
減します。その上を自動車が通ることとなればなおさらです。
・踏み圧による土壌物理性悪化防止対策
樹木の枝張りの範囲内には立ち入らないのが一番です。
次は樹下の表土を20pほど耕し,土をよく砕いて埋め戻すか,堆肥や肥料,バーミキ
ュライト,パーライトなど高分子系の土壌改良剤等を混ぜて埋め戻します。
さらには,樹木の周囲に石畳の通路を作って内側に立ち入らせないようにしたり,ま
た,雨水などは樹下に導いて地中に浸透させることも考えて下さい。
〈各種異常気象によって起こる被害〉
△日照不足
・アカマツ大樹の枝枯れ
この例では,アカマツの周囲に,他の照葉樹などの樹林がだんだん繁茂して日陰にな
り,そのために枝が枯れたようです。この場合は,周囲の樹林を疎開する必要がありま
す。
・山中にあるシロヤシオの枯れ
標高約1000mのシロヤシオの例では,樹冠の半分以上が他の樹で覆われ,葉にアブラ
ムシが大量に寄生し,幹の地際部には腐朽菌が入っていました。
△寒さの害
寒波などに最も弱い樹種はクスノキで,続いてサザンカ,ツバキ,ヤマモモ,ケヤキ
などです。葉が変色したり縮んだりし,さらに落葉したり枝が枯れたりして,枯死しま
す。
・凍害
北関東平地などではクスノキは植栽されたものですので,凍害の被害を受けます。そ
こに枯れ性の病原菌が侵入しますので,梢端などをある程度せん定するか,殺菌剤の散
布が必要です。
・凍裂害
気温が氷点下に急激に下がりますと,樹木の北面の樹幹が縦に裂けます。髄線の大き
いカシ類,ブナ,ニレ類,あるいは樹皮の薄いサクラ類,カエデ類,ヤナギ類,ケヤキ
に起こりやすいです。そこから腐朽菌が侵入しやすくなりますので,トップジンMペー
ストを塗布し,カルスが盛り上がるまで薬剤を塗布して下さい。また裂け目が不揃いの
ときは刃物で切り揃えます。
△落雷
雷は,孤立木や,枯れた梢端に落ちやすいといわれています。手当は凍裂害に準じま
す。
△風害
・転倒樹の回復
風害は,台風の通過や冬期季節風によって起こります。
転倒の場合には,樹種の性質や根の状態を考慮して引き起こすかどうかを決めます。
引き起こしたときは,地上部の根は損傷の程度に応じて切り詰めます。
機械的な傷には,トップジンMなどの殺殺菌剤を塗布して,腐朽菌の侵入を防止しま
す。
・台風の被害整理と樹木転倒の予防
台風後には必ず見回って折れた枝は切除し,薬剤塗布をしておきましょう。
倒れそうな大樹は日頃から調査しておいて,事前に支柱を設置しておいて下さい。
参考 「樹木医ハンドブック」安盛博著(株)牧野出版
[次へ進む] [バック]