★トキワ署ピカピカ日記★ |
〜第3章 トキワシティ大追跡!〜
「ピカピカ」
「ピカ?」
「ピカ、ピカチュウ」
街外れの廃車置場で3匹のピカチュウとヒトカゲがかたまって何事か話し合っている。このピカチュウとヒトカゲ、黄色い幼稚園帽におそろいの色の幼稚園カバンを下げ、水色とピンクのスモッグの先から尻尾がぴんと飛び出している。
真ん中のピカチュウの前には最新型の小さなノート型パソコンが置かれ、携帯電話と回線がつないであった。パソコンの電源が切れたのか、右端のピカチュウが頬の電気袋からパソコンに電力を送っている。ピカチュウが3匹固まっている隣でヒトカゲがラジコンのコントローラーのようなものをいじっていた。
「ピカピカ」
「カゲ―」
「ピカ」
「ピカチュウ」
パソコンをいじっているピカチュウの指示でヒトカゲがコントローラーを動かす。指定の位置までヒトカゲが誘導をし終えると、ピカチュウが再び合図を送る。すると今度はピンクのスモッグを着たピカチュウが前に置いている小さな機械のスイッチを押した。しばらくするとパソコンの画面にトキワ署の映像が送られてきた。
「はーい、ピカチュウちゃんたち、そこまでよ。」
「ピ!?」
いつのまにかピカチュウたちの目の前に制服姿の警官が二人立っていた。ピンクのスモッグを着ているピィが素早くピカチュウの後ろに隠れた。
「いけないことしちゃダメじゃないの。さ、ネガを出しなさい。」
「ピカピカ、ピカチュウ、ピカピカチュウ」
「なんて言ってんだ?」
今まで黙っていた男子警官が困ったように言う。普通の人間にはポケモンの言葉は分からないのだから当然ではある。だが、それにしても意思の疎通が全く成り立たなかった。
「ニャース」
片割れの婦警が気のない声で連れてきたニャースを呼ぶ。彼女の声に応えて、ニャースはとことこと彼らの方へと歩いてきた。
「通訳。」
「デジタルデータだからネガなんてないって言ってるニャ。」
「ピ!?」
人間の言葉を話すニャースの出現にピカチュウたちは一斉に身構えた。見ず知らずのニャースがぺらぺらと人の言葉を喋っていては警戒しても当然だろう。
「なーに警戒してるかなぁ。あんたたちだって相当ポケモン離れした事やってるでしょうが。とにかくネガを出しな!」
「ピカピカチュウ!」
「だからネガなんてないニャ」
「ネガがないわけないでしょうが!とっととネガをお出し!」
「ピィ〜カァ〜チュ〜ウ!ピカピカァ!」
「だぁ〜かぁ〜ら、ネガなんてないニャ」
「ピカチュウの分際でごちゃごちゃとわけ分からないコト言ってないで、とっととネガを出せ〜!!」
しばらく押し問答を繰り返した挙句、ネガがないという事が理解できない婦警はとうとうキレた。
「ピカ!ピカピカチュウ!!ピィカァ!」
「制服着てても騙されないぞ。何なんだお前たち。」
「何なんだ?」
ニャースが通訳した言葉の中の"何なんだ"という単語に二人は過剰反応を示し、わずかな間激しく悶絶していたが、
「とう!」
かけ声と共に制服を脱ぎ捨てた。
「"何なんだ"と聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け。」
「世界の破壊を防ぐ為」
「世界の平和を守る為」
あっけにとられているピカチュウたちを尻目に、二人は悦に入った様子で口上を述べ立てている。
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役」
彼らが何者なのかもうお分かりだろう。
「ムサシ」
「コジロウ」
どこからともなくスポットライトが二人の頭上に降り注ぐ。まだ明るいはずなのに、何故か二人の背後だけが暗くなっていた。誰も気付かないが、二人が(特にムサシが)暴れださないようにとニャースが陰で涙ぐましい努力をしてこの舞台装置を作り上げているのだ。
「銀河をかけるロケット団の二人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ。」
「ニャ―ンてニャ」
二章では二人から(特にムサシから)口上を中略した事への厳重な抗議があったため、今回はフルバージョンでお届けしました。
「あんた達!」
ラジコンヘリを追ってきたイエローとブルーがドドすけで駆けつける。
「この間の銀行強盗未遂犯ね!」
「見つけたか!」
二人を追ってグリーンも駆けつけてくる。本職の警官が三人に加え、ピカチュウも電気袋を膨らませて戦闘体勢をとっている。
「これはちょっと・・」
「さすがにやばいかも?」
「逃げるニャ―!!」
ニャースの声と同時に、ロケット団トリオはここまでやってくるのに使った車に飛び乗るとピカチュウたちの横をすり抜けて走り去った。
「逃がすな!」
グリーンに言われるまでもなく、イエローもブルーもドドすけに飛び乗ると猛然とロケット団を追走し始める。二人に続こうとするグリーンの後ろにヒトカゲが飛び乗った。
「何だお前。そんなもの買ってやった覚えはないぞ。」
グリーンはヒトカゲが持っているラジコンのことを言っているのだ。このヒトカゲ、グリーンのヒトカゲなのである。
「カゲ、カゲカゲ!カゲ―!!」
ヒトカゲは慌てて話をそらそうと、ドドすけが走り去った方向を指差した。
「また姉貴だな。まぁいい、この話は後回しだ。振り落とされるなよ。」
バイクを発進させたグリーンは大通りに差し掛かるとすぐに前を行くドドすけとは別の横道に入った。グリーンの頭の中にはトキワシティの全ての道路が記憶されている。何も後を追うだけが捕まえる手段ではない。近道を通ってロケット団が逃走に使うであろうルートに先回りしようというのだ。
それと平行してグリーンはトキワ署に連絡を入れた。イエローはともかく、ブルーは先走りする傾向がある。ブルーが署に連絡を入れなければハンドルを握っているイエローには通信する術がない。案の定、トキワ署にはブルーたちからの連絡はまだ入っていなかった。
グリーンの連絡を受けたトキワ署は直ちに行動を開始した。銀行強盗未遂事件の捜査を担当している刑事たちはすぐさまトキワ署を飛び出すと各々別々のルートでトキワの街を走り出した。
トキワシティに回転灯のサイレンが鳴り響く。街のあらゆる道路にパトカーと白バイが走っているといっても過言ではない状態だ。この状態になってブルーはようやくまだ自分たちが連絡を入れていないことに気がついた。
「こちらトキワ4号。現在シティバンク銀行強盗未遂犯を追って中央道を北上中。犯人グループは白のワゴン車で逃走中。第三交差点で右折。広場を突っ切ってトキワの森に逃げ込むつもりかと思われます。」
「トキワの森・・」
ブルーの報告を聞いていたイエローの目の色が変わる。突然の彼女の変化にブルーは驚いた。
「ちょっと、どうしたのよ!」
「許せません・・!」
思い切りアクセルを踏み込み、イエローは限界速度までスピードを上げてロケット団を追った。警邏中の穏やかなハンドルさばきもどこへやら、派手にコーナーを回りまるでレースでもしているかのようなドライビングでロケット団を激しく追い上げた。
「何する気なのよ、イエロー!」
「道を塞ぎます!トキワの森には入れません!!」
昔、イエローのドードー、"ドドすけ"がトキワの森で暴走車にはねられた事がある。幸い命に別状はなかったものの、今なおドドすけの足には後遺症が残り自由に走る事が出来ない。それでもドドすけは望みを捨てずにポケモンセンターで日々リハビリに励んでいる。そんなドドすけと共にイエローは育ってきた。ドドすけがはねられたあの日からイエローは警官を志し、それまで全く縁のなかった車の免許を取り、そしてトキワ署交通課の激務に耐えられるドライビングテクニックを身につけるべく日々努力してきたのだ。
これ以上ポケモンを暴走車の危険にさらしたくない。二度とドドすけのようなポケモンを出してはいけない。その一念だけでイエローはハンドルを握り続けてきたのだ。
「道を塞ぐったって、先回りしなきゃ話にならないわよ!?」
「ピカ、ピカピカ。」
「え!?ピカって・・あんたたち!!」
いつの間にかピカチュウトリオが後ろに乗り込んでいる。どうやらブルーたちが飛び乗る寸前に車内に飛び込んだらしい。
「右ですね!」
ピカチュウの言葉に反応してイエローが素早くハンドルを右に切る。日頃トキワシティを駆け回っているピカチュウたちも街中の道という道を熟知している。中にはミニパトが通るのも精一杯というような道もあるが、イエローにかかればそんな道もどうということもない。
ピカチュウたちのナビでドドすけが広場に飛び出してくるのとグリーンのバイクが姿を現すのとはほぼ同時だった。
「しまった・・!」
「一足遅かったか・・!」
ロケット団の3人にしても必死に走りに走って逃げているのだ。ほんの僅かの差でロケット団のワゴンの方が先に広場を走り抜けてしまった。今にもワゴンが広場を抜けようかというその時、一台の覆面パトカーが横道から突っ込んできた。サトシたちから取り上げられた車だ。
パトカーがワゴンの正面に突っ込む。ワゴンが急ブレーキをかけてハンドルを切るが、回転したワゴンの後部がパトカーに突っ込んでしまった。
「シゲル!!」
悲鳴のようなグリーンの叫びが響き渡った。
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