エーフィと青年
(「ふみゅう。」−萌え系ポケモン小説執筆プロジェクト−参加作品)
(この作品は、マサラのポケモン図書館において、「何でも良いから、萌えること」というコンセプトで(笑)企画された「ふみゅう。」−萌え系ポケモン小説執筆プロジェクト−に参加した作品に、若干の推敲を加えたものです)
「世界中の誰よりも、お前が最高だよ、エール」
しなやかな体を青年の膝の上に優美に横たえたエーフィの、柔らかく滑らかな薄紫の毛並みを愛撫しながら、青年はささやいた。
「ふみゅう。……」
エーフィは、陶然として目を閉じ、繊細な柔毛で覆われた二又の尾を震わせて、溜め息とも鳴き声ともつかない甘やかな声をあげた。
青年は、イーブイから丹精こめて育て上げたそのエーフィを大層愛し、大切にしていた。
愛情を一身に受け、美しく成長した彼女もまた、青年を慕い、忠実に愛情深く仕えていた。
しかし、いつのころからか、エーフィはときおり悲しげな瞳を青年に向けるようになった。
「どうしてそんな悲しい目をするんだい、エール? ……お前が言葉を話せたらなあ……」
ある日エーフィは、忽然と姿を消した。
青年は四方八方手を尽くし探したが消息は知れず、彼は悲しみに沈んだ。
それから一年が過ぎたころ。
青年の家の扉をそっと叩くものがあった。
彼が扉を開けると、そこには一人の美しい少女が立っていた。
しなやかな体の線を引き立たせる薄紫の短いワンピースをまとい、愛らしくも優雅な雰囲気を漂わせたその少女は、懐かしげに彼を見上げて言った。
「ただいま戻りました、ご主人様……!」
「人違いではありませんか?」
怪訝な顔をする青年に、少女は神秘的な深い紫色の瞳を潤ませた。
「ご主人様。……あたしです。エールです」
「ええっ?!」
「もっともっとご主人様に喜んでもらいたくて、人間になる方法を一所懸命探したんです! ……」
彼女はそのまま、苦労話を語り始めた。最初はメタモンに尋ねたがらちがあかず、ホウオウやラティアス、ジラーチにミュウといった伝説ポケモンを探し回ったり、あちこちの遺跡を訪ねたり……と、語りつくせぬほどの苦労の果てに、ついにこの姿になれたのだ、と。
「そんな、まさか……!」
「本当です! ……ご主人様のことなら、あたしなんでも知ってます。
朝のコーヒーは、ミルクなしでお砂糖を2つだけ、とか、ゆで卵はきっかり8分半ゆでたのがお好き、とか、お風呂の温度は39度、カレーは中辛、布団は羽毛、……」
青年は驚きに目を見開いた。
「本当に、……本当にエールなのか?!」
「はい、ご主人様……!」
感極まった様子の少女を前に、青年は――
「そ、そんなぁぁっ!!!」
――身も世も無い悲鳴を上げ、頭をかきむしった。
「こんなの、僕のエールたんじゃなーーいぃぃっ!!」
「――はぁぁっ!?!」
「……あの、ネコヤナギの芽みたいに触ったか触らないか分からないほど滑らかな毛皮も、すべすべではみはみすると気持ちいい柔らかな産毛で覆われた耳も、撫でるとピクピクさせたりクネクネしたりするらぶりぃな尻尾も、触っただけで心の奥底から癒されるぷにぷにの肉球さえも無いなんてぇえええーーーっ!!
もふもふも出来ない人間の女なんかいらーんっ! ケモノのメスじゃなきゃヤだヤだヤだーいっ!!!」
「なんぢゃそりゃぁあああああ!!!」
今までの散々の苦労を台無しにされブチ切れたエールは青年をボコボコにして出奔し、ついでになぜかポケモンリーグに殴り込みチャンピオンをぶち倒してポケモンマスターの座に就き、美青年を集めて四天王にして末永く君臨したそうな。
どっとはらい?
※ この話はフィクションです。実在の人物及び他の小説の登場人物やポケモンとは全く関係ありませんのであしからず。(^^;)
強いて言えば、江戸時代の話で、飼い猫がお伊勢参りに行って人間になって帰ってくる話が元ネタだったりして。