アメリカにおけるディベート教育(留学編)

 

ニューヨーク滞在の目的の中には、コロンビア大学で入学準備の為の英語集中講座をうけることでした。授業の中でいかにディベートが当たり前のものかを二人の先生の授 業を例にとりご紹介します。

ジュディ先生(Judy Miller)英文エッセイを指導するには、とても定評のある先生です。なぜ定評があるかというと彼女の論理的な説明、ゆっくり、はっきりと、しかもユーモアを交えた話し方、書きやすい板書の使い方をするからです。2時間の授業はあっという間に過ぎてしまいました。

 

印象的な授業

英文エッセイを書くのにディベートの立論を考えるのと全く同じ手順で準備をしたことです。論題は、"Women should be allowed to paticipate fully in the military"(女性を軍事行動に全面的参加を許可をすべし)を使います。(この論題は、昨年95年11月にイスラエル最高裁の判決で一人の女性が、空軍パイロットとして男女平等の権利を勝ち取ったというニューヨークタイムズの記事を基にしています。)

まず始めにビデオを観ます。内容は、自ら軍隊に志願した米国人女性の話です。看護婦であり、三児の母である彼女は、命の危険を顧みず湾岸戦争に参加するのです。特別手当と看護婦として特殊訓練を受けられる以外メリットはなく、それでも自分に課せられた任務と信じ、家族を説得し、果敢に立ち向かっていく話です。  

次に ブレーンストーミング(Brainstorming) をして賛成(For)と反対(Against)の意見をみんなでどんどん出し合うのです。いくつか意見がでた後に、実際にそれに関するニューヨークタイムズの記事を読みます。記事では、イスラエル最高裁の判決は画期的なもので、市民生活においても、より男女平等社会になる弾みとして手放しで賞賛する肯定派と、ユダヤ社会に深く根づく、女性は家庭を守るべきだという考えを支持する否定派と真っ向から対立しています。これらを参考に自分なりに考えをまとめてエッセイを書きます。  

問題は、この論題に対し、自分の立場を明らかにし、例証をあげながら、なぜ支持をするのか説明し、読み手を説得します。ただ単に論題に「賛成です」「反対です」では いけないのです。必ず、理由やそれを支えるデータが必要です。ディベートの立論を考える手順と同じですね。  

このようにして、ごく当たり前に授業の中で論理的思考(Logical Thinking) と批判的思考(Critical Thinking)を身に付けていきます。この部分は日本人にとても欠けているといわれています。はたして日本に、東洋の国々にこういう形の授業はあるのでしょうか?  

さて、次にご紹介するのは、デイビット先生(David H.Quinn)です。エンターテイナーかと思わせるほど生徒を楽しませる先生です。アメリカ史の授業では、自分の体全部を使って言葉やしぐさを表現し、時には、歌をうたいその当時の時代 背景を説明します。歴史は、つまらないという印象しかなかった私は、この授業のおか げでアメリカ史に魅せられていきました。

 

<I disagree with … 反対です!>

デイビット先生の学生時代も今のアメリカの授業でも、誰かがいつも人の意見に対し "I disagree with…(反対です!)"といって議論を盛り上げるそうです。つまり、Devil's Advocate(わざと反対の立場をとる人)を演じるわけです。とにかく、賑やかで議論を闘わせて、内容を深めることを楽しむようです。ですから、私達の授業中でもなんとか議論を活発にしようと先生自ら盛り上げようとし ています。もし、和を重んじる日本でこのような Devil's Advocate を演じたらどうなることでしょう。結果はもうおわかりですね……         

やはり議論に対する土壌が日本とアメリカでは、全く違います。その違いを認識した上で、授業に参加したり、ディベートを学んだほうがより実りあるものになると思います。

 

<アジア型発想とアメリカ型発想>

ディベートの時、まず「結論から言いましょう」といわれていますね。それは、アメ リカ型発想からきています。アメリカ型発想をする人は、始めに最も大切な事(Main idea)を言います。次にそれ に関する具体的な内容がくると、後は、またMain idea を言って締めくくります。アジア型発想をする日本人は、図に描くとちょうど蚊取り線香のようです。話が外側から入っていきます。ぐるぐると中心に向かっていますが、なかなか結論(What is your point ?)にたどり着きません。日本的教育を受けてきた人が、急に180度発想を転換することはたやすいことでは ありません。でも、ディベートの試合で、限られた時間内にアメリカ型発想をすることによって、身につけていくことができます。そうすることで、自分達の発想を否定するのではなく、思考方法の選択肢をふやせば、自分の幅も広がるというものです。それを応用すれば、人と話す時、時間がなければ、結論を先に言えばいいのだと判断できす。

 

 

ニューヨークこぼれ話――その2――  

ひところ東洋の女性の生き方は、西洋の女性に比べて、10年も20年も遅れているとも言われていました。でも、私のクラスメートには、七か月の子供を祖国の親元に預けている韓国人、10歳の子供を連れている中国人、銀行員で有給休暇を利用している二児の母親の台湾人、そして、二児の母である私も含めて、確実に、東洋の女性の生き方が変わりつつあることを肌で感じました。

 

ニューヨークこぼれ話 ――その3――  

コロンビア大学院のロースクールでの話。授業でdiscuss(討論)の時、どうしても沈黙しがちなのは、日本人。二つのタイプがあり、一つは、内容がわからず意見が言えないタイプ。もう一つは、内容はわかっているが、こんなことを言っていいのだろうか、と躊躇するタイプ。いずれにしても「沈黙は金なり」というのは、東洋で通用する話です。さあ、Discuss の時には、活発に自分の意見を言いましょう。

 

ニューヨークこぼれ話 ――その4――  

ジュリアード音楽院のピアノ科での話。先生が、「この曲を弾きたい人?」と聞くと必ず、アメリカ人は、「ハイ!」とすぐに手をあげるそうです。その子がいざ弾いてみると、手をあげない日本人より明らかに下手だということです。でも、ここで大切なことは、「自分は弾きたい」という自分の意志を素直に表現できることなのです。