文責:倉島
ディベートにおいて、いかに伝えるかは、何を伝えるいかと同程度に重要です。また、同程度に難しいことです。
■伝えられなければ勝てない
どんなに論理的な主張であっても、ジャッジに伝わらなければディベートには勝てません。ジャッジは、自らが聞き取った内容でジャッジするのです。ディベータが述べたことでジャッジするのではありません。
言い換えれば、ディベートの勝敗は、何を述べたかで決まるのではなく、何を聞き取ってもらえたかで決まるのです。述べたのだから、評価されるはずと考えるのは早計です。早口でたくさん述べるのは、時として何も述べなかったのと同じです。
■コミュニケーションの責任はディベータ側にある
意見を伝える責任は、ディベータ側にあります。つまり、ミスコミュニケーションが生じたら、それはディベータの責任です。これをジャッジ押しつけてはいけません。
たとえば、自分が述べたことを、ジャッジに誤解されてしまったり、述べていないかのように扱われたりした場合、悪いのはディベータです。分かるように話さないディベータが悪いのです。これを「あのジャッジは下手!」のように、ジャッジのせいにしてはいけません。
■ジャッジに伝わる表現方法
しっかりとジャッジに伝わるように話すには、次の5つのポイントに注意しましょう。
◇最初にアウトラインを述べる
話の始めには、全体の構成を述べます。これにより、聞き手は話を聞く心積もりができて、理解しやすくなります。ただし、立論では話の構成が事実上決まっているので、特にアウトラインを述べる必要はないでしょう。
例:「まず、これまでの議論をまとめ、次にデメリットをアタックしてから、メリットを補強します。」 (反駁の場合)
◇ナンバリング利用する
列挙して述べるとき、まずいくつの項目があるかを述べ、その後、各項目に番号をつけて順に述べます。これには以下の利点があります。
例:「メリットは二つあります。一つ目は、........になるということです。二つ目は、.......」
◇ラベリング利用する
メリット/デメリットを述べるときには、各メリット/デメリットに小見出しをつけて述べます。聞き手は話を聞く心積もりができて、理解しやすくなりますし、その後の議論で参照しやすくなります。ラベルは、できるだけ短く具体的なものがよいでしょう。
例:「メリットの1つ目は、『交通事故の減少』です。」
◇先に要点を述べる
ある程度まとまった話をする場合は、まず要点を先に述べてから、詳しく説明します。これにより、聞き手は話し手がこれから何を話そうとするのかわかり、話を聞く心積もりができて、理解しやすくなります。逆にこれをしないと、聞き手は話し手が結局何を言おうとしているのかを、考えながら聞くので、理解しづらくなります。
このポイントは、データの引用時に特に重要です。データを引用するときは、そのデータで何を言おうとしているのかを先に述べてから、データを引用しましょう。いきなりデータを読み始めると、ジャッジは、そのデータのどこを聞き取れば(=書き取れば)よいのかが分かりません。
良い例:「職業裁判官は、一般市民より事実認定能力にまさるというデータを示します。出典は...」
悪い例:「データを引用します。出典は... 以上のように、職業裁判官は、一般市民より事実認定能力にまさるのです。」
◇最後に要点を繰り返す
ある程度まとまった話をする場合は、最後にもう一度、要点を繰り返します。聞き手の頭の整理に役立ちます。また、最初に述べた要点を、聞き手が聞き逃したり、 忘れてしまったりしている場合もあるので、それを補うこともできます。
例:「以上のように、一般市民は事実認定能力に劣ること、マスメディアの影響を受けやすいことの2点から、デメリットの一番目『誤審の増加』が発生します。」
■伝わっているかを確認する
自分のスピーチがジャッジに伝わっているかは、ジャッジを見ればわかります。ジャッジが、一所懸命にフローシートを取っていれば、伝わっている証拠です。一方、ジャッジのペンが止まっているようだと、伝わっていません。ジャッジを見ながらスピーチするのは、訴求力を高めるためばかりではないのです。
■コミュニケーションにもっと注意を
口頭での、しかも一方通行のコミュニケーションは、非常に難しいものです。筆者は、ディベートの中で最も難しいとのは、伝わるように述べることと思っています。相手の論点の穴を見つけることの方がまだ簡単と感じます。
今回は、表現方法からのポイントを述べましたが、他にもコミュニケーション上、大事なことはたくさんあります。十分に理解できる程度の速さで話すことや明瞭に話すこともその一つです。多くのディベータが早口すぎて、損をしているのが現状です。
もっと、コミュニケーションに注意を払えば、ディベートの勝率が上がることでしょう。