反駁の練習:解答7

1997.10.15 文責:倉島

否定側の議論の流れ

否定側の議論はおおむね以下のようでした。

1. 大規模公共工事の見積は大幅に狂う

2. 首都移転の費用も数倍から数十倍に膨らむ

3. 現状の財政赤字でを考慮すると、深刻なほど財政を圧迫する

 

否定側の議論には根拠がない

否定側の論理の最大の欠点は、その主張に対する根拠がないことです。つまり、大規模公共事業のときには、なぜ政府見積もりが過小評価となるのかの根拠が示されていないのです。青函トンネルや関西国際空港の例も、文献からの引用も、データでしかありません。根拠のない主張は、潰すのも簡単ですし、わざわざ潰さなくても、ジャッジによっては主張そのものを取ってはくれません。

この例のように、データだけで根拠が抜けてしまうことはよくあります。特に、市販の出版物などに多く見られるため、出版物を鵜呑みにして立論を作成すると良くこのようなミスを犯してしまいます。参考としている出版物に惑わされることなく、自分で考えることが大事です。

なお、この問題を解いてみて、否定側の議論に根拠が抜けていることに気が付かなかった方は、ディベート的な論理思考が不十分です。議論自体は以下に説明する穴を突けば勝てるでしょうが、よりいっそうの練習が必要でしょう。

 

間違った一般化をしている

また、統計的なデータなしに、たった二つの例をもって、一般化することはできません。つまり、青函トンネルや関西国際空港で政府見積もりが過小評価になったからといって、全ての大規模公共工事で政府見積もりが過小評価になると言い切ることはできません。(統計的なデータで裏付けてあれば別ですが)

青函トンネルや関西国際空港の共通点は、大規模公共工事ということだけではありません。両者とも海や交通機関に関係しています。二つの例で一般化できるなら、『交通機関に関係する公共工事において、政府見積もりは絶えず、過小評価となる』と言えることになってしまいます。

 

財政を圧迫する深刻度の説明が不十分

さらに、否定側は『10兆円を越えるような出費が生じれば、日本政府の破綻すら考えられます』と述べていますが、これも根拠が不足しています。たしかに、10兆円を越えるような出費は、一般感覚からすれば膨大です。しかし、一方では、国/地方自治体の赤字や旧国鉄債務を含めると日本国民は400兆円をゆうに超える借金をしています。首都移転費用を仮に全て借金でまかなったとしても、借金がわずか2%程度増えるにすぎません。したがって、大した出費でないと見ることもできます。まして、『日本政府の破綻』になるとは考えにくいです。