影法師
【解題】 一人寝に昔の恋人を偲ぶ女心を歌ったもの。粋な歌詞と静かな曲調の端唄物である。 【解析】 ○ あれ |聞け と、 時雨 降る夜 の|鐘の声。 「あれを|聞いてごらん」と、あの人にささやかれ、時雨が降る夜に二人抱き合って聞いた |鐘の音。 ○ 寒さに| よする | |置炬燵。 それも今は昔。あまりの寒さに|引き寄せるのは、あの人ではなくて、置炬燵。 ○とろとろと|うたた寝の 、 夢 |驚きて |甲斐なくも、 とろとろと|うたた寝をして、昔の楽しい夢を見たが、覚めてみると|がっかり 、 ○ しょんぼり| |二人 差し向かひ、 私はしょんぼり、あの人ではなくて、自分の影と|二人で差し向かい、 ○ |かき立て 見れば| ともし火の 、曇りがちなる| |心のうち、 灯火を|かき立てて見ると、その 灯 火のように、曇りがちな |私の|心のうち。 ○びんのほつれや|寝乱れ髪に、やつれさんした|お前の姿 、 鬢 のほつれや|寝乱れ髪で、やつれなさった|お前の姿を見て、 ○わたしがやせた も|道理 ぢゃ |と、わたしが泣けば|お前も涙 、 わたしがやせたのも|もっともだ ね|と、わたしが泣けば|お前も泣く、 ○ほんにこの身は|あるやらないやら、 |夢まぼろしの|浮世ぢゃな 。 本当にこの身は|あるやらないやら、影法師のような|夢まぼろしの|浮世だ ねえ。 ○なんとお前は|思はんす 、返答 さん せ| 影法師。 どう お前は|思いなさる、返答しなさいませ、私の影法師。 【背景】 あれ聞けと 芭蕉七部集の原典は「時雨来る夜の」となっている。 ○あれ聞けと時雨来る夜の鐘の声 (其角・猿蓑集・巻之一・冬) |
作曲:幾山検校・北村文合作 作詞:橘真丸 【語注】 あれきけと⇒背景 |