秋の言の葉
【解題】 古人が歌に残している立秋から晩秋に至る秋の風物の代表的なものを取り上げて描写したもの。秋の植物の様子、虫の音、月の有り様などが点描されている。 【解析】 ○散り初むる、桐の一葉に自ずから、 |袂 涼しく |朝夕は、野辺の千 草におく 露 の 、 散り初めた、桐の一葉に自然に |秋が立って|袂が涼しくなり、朝夕は、野辺の様々な草に降りる露を見ると、 ┌──────────┐ ○ 露の 情を 身に知る や、誰 | 松 虫 ↓|の音に立てて、 その露のように消えやすいあの人の愛情を我が身に知ることよ。誰を|待って|であろうか、 | 松 虫| |が声を立てて、 ○いとど やさしき 鈴虫の、声に引かれて|武士(もののふ)の、歩ます 駒 の くつわ 虫。 《駒》 《 轡 》 いっそう風情がある鈴虫の|声に引かれて、武士 が|歩ませる馬 の| 轡 。 |くつわ 虫。 ○ 哀れは 同じ 片里の、いぶせき | 賎 が| 伏 家にも、 秋の哀れはどこも同じで、片里の|むさくるしい|下賤の者の|あばら家でも、 ○ |綴(つづ)れ | 刺せ |て ふ |きりぎりす。 冬を迎える準備に着物を|縫い合わせたり|針を刺したりして繕え|と鳴いている|きりぎりす。その ○はた 織る虫 |の声々に、合はす |拍子の|遠 砧 | 、面白 や | 更け行くままの | 布 を織るように鳴く| 機 織 虫 |の声々に、 |拍子を| |合わせる| |遠ぎぬた|の音も|風情があるなあ、夜が更け行くにつれて、 ○大空に、隈なき 月の影 清き 、今宵ぞ秋の |最 中 と は|いにしへ人の|言の葉を、 大空に、曇りない月の光は清らかで、今宵は秋のちょうど|真ん中であるという歌は| 古 人の|言 葉を、 ○今 に 伝へて 敷島 の|道の 栞 |と |残し ける 。 現在にまで伝えて、日本の国の| |和歌 の|道の | |道 案内|として|残してあることだ。 【背景】 袂涼しく ○旅人は袂涼しくなりにけり関吹き越ゆる須磨の浦風 (続古今集・在原行平) 「明石」の【背景】を参照。 露の情 ○ |言の 葉の|霜枯れ | に |し|に | |思ひ| に |き あの人の|言 葉が| 草葉が|霜枯れるように| |つれなくなっ |てしまっ|た|ので、つくづく|考え|てしまっ|た。 ○ 露の 情も|かから |ましか| ば 《露》 《掛から》 あの人の露のようにもろくはかない愛情も、これほどまでうすくなかっ|た |ならばなあ、と。 (岩波文庫山家集159P恋歌・新潮1286番) 今宵ぞ秋の最中 ○ 水の面(おも)に|照る |月 波を |数ふれば| |月 並 | 池の水 面 に|光っている|月光の映る波を見ながら| |月の 数を |数えると| ○今宵ぞ|秋の最 中(もなか)なり |ける 今宵は|秋の真ん中 | | 中秋 |であっ|たなあ。 (拾遺集・第三・秋・171・源順) |
作詞:池田茂政 作曲:西山徳茂都 【語注】 桐の一葉に 「一葉落ちて天下の秋を知る」(白氏六帖・第三・秋の部)などを踏まえる。 袂涼しく⇒背景 露の情⇒背景 松虫…武士…駒…くつわ虫 「小督の曲」の歌詞を参照。 駒と轡(くつわ)は縁語。 てふ 「と言ふ」が圧縮されたもの。 きりぎりす 別称は「機織虫」。 今宵ぞ秋の最中⇒背景 露と掛からは縁語。 最中なりける 「ける」は発見詠嘆。 |