0401b 昭和天皇御製2
 
 昭和四十六年
 
 「家」
*はてもなき砺波トナミのひろ野杉むらに とりかこまるる家いへの見ゆ
 
 「欧州の旅(伊勢神宮参拝)」
 外国トツクニの旅やすらけくあらしめと けふは来ていのる五十鈴の宮に
 
 「前同(前同所感)」
 戦をとどめえざりしくちをしさ ななそぢになる今もなほおもふ
 
 「前同」
 戦果ててみそとせ近きになほうらむ 人あるをわれはおもひかなしむ
 
 「前同」
 さはあれど多くの人はあたたかく むかへくれしをうれしと思ふ
 
 「前同」
 戦にいたでをうけし諸人の うらむをおもひ深くつつしむ
 
 「前同 ワーテルローのパノラマを見て」
 戦の烈しきさまをしのびつつ パノラマみれば胸せまりくる
 
 「前同」
 時しもあれ王室の方の示されし あつきなさけをうれしとぞ思ふ
 
 「前同(光化学スモッグのこと)」
 秋の日に黒き霧なきはうらやまし ロンドンの空はすみわたりたる
 
 「前同」
 戦ひて共にいたつきし人々は あつくもわれらをむかへくれける
 
 「前同 デンマークの陶器工場にて」
 いそとせまへの外国の旅にもとめたる 陶器スエモノ思ひつつそのたくみ場に立つ
 
 「前同」
 この園のボールニシキヘビおとなしく きさきの宮の手の上にあり
 
 「前同」
 緑なる角もつカメレオンおもしろし わが手の中におとなしくゐて
 
 「前同(ウィンザー公と再会)」
 若き日に会ひしはすでにいそとせまへ けふなつかしくも君とかたりぬ
 
 「前同 フランス ホテル・クリヨンよりコンコルドの広場を眺む」
 この広場ながめつつ思ふ遠き世の わすれかねつる悲しきことを
 
 「前同」
 アラスカの空に聳えて白じろと マッキンレーの山は雪のかがやく
 
 「前同」
 外国の空の長旅ことなきは たづさはりし人の力とぞ思ふ
 
 昭和四十七年
 
 「山」
*ヨーロッパの空はろばろととびにけり アルプスの峰は雲の上に見て
 
 「伊豆須崎にて」
 谷かげの林の春は淡くして 風藤葛フウトウカヅラの実のあかあかと見ゆ
 
 「奄美大島マングローブの自生地にて」
 潮のさす浜にしげたるメヒルギと オヒルギを見つ暖国に来て
 
 昭和四十八年
 
 「子ども」
*氷る広場すべる子どもらのとばしたる 風船はゆくそらのはるかに
 
 「式年遷宮」
 宮移りの神にささぐる御宝の わざのたくみさみておどろけり
 
 「前同」
 秋さりてそのふの夜のしづけきに 伊勢の大神をはるかにをろがむ
 
 「上野動物園にて」
 ロンドンの旅おもひつつ大パンダ 上野の園にけふ見つるかな
 
 日本猿の親は子をつれゆくりなくも 森のこかげにあらはれたりけり
 
 「東久迩信彦の子供ロンドンに生る」
 やすらけく日向路さして立ちにけり 曾孫のあれしよろこびを胸に
 
 「須崎の冬」
 風寒く師走の月はさえわたり 海を照らしてひかりかがやく
 
 昭和四十九年
 
 「朝」
*岡こえて利島トシマかすかにみゆるかな 波風もなき朝のうなばら
 
 「須崎早春」
 緑こきしだ類をみれば楽しけど 世をしおもへばうれひふかしも
 
 「那須の町営牧場」
 あまたの牛のびのびと遊ぶ牧原に はたらく人のいたつき思ふ
 
 「迎賓館」
 たちなほれるこの建物に外つ国の まれびとを迎へむ時はきにけり
 
 「米国フォード大統領の初の訪問」
 大統領は冬晴のあしたに立ちましぬ むつみかはせしいく日ニチを経て
 
 「八幡平ハイツにて」
 夕空にたけだけしくもそびえたつ 岩手山には雪なほのこる
 
 「国民休暇村水郷にて」
 おそ秋の霞ヶ浦の岸の辺に 枯れ枯れにのこる大きはちす葉
 
 「十一月八日 内宮にまゐりて」
 冬ながら朝暖かししづかなる 五十鈴の宮にまうで来つれば
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