0401 昭和天皇御製2
 
               昭和天皇御製
 
                      参考:桜楓社発行「おほみうた」
                         創樹社発行「昭和天皇の和歌」
 
                               *は歌会始御製
 昭和三十八年
 
 「草原」
*那須の山そびえてみゆる草原に いろとりどりの野の花はさく
 
 「秋芳洞 二首」
 若き日にわが名づけたる洞穴に ふたたびは来てくだりゆかむとす
 
 「前同」
 洞穴もあかるくなれりここに住む 生物いかになりゆくらむか
 
 「笠山 三首のうち二首」
 そのむかしアダムスの来て貝とりし 児島をのぞむ沖べはるかに
 
 「前同」
 波たたぬ日本海にうかびたる 数の島影は見れどあかぬかも
 
 「二大事故(国鉄横須賀線・三井三池炭坑)」
 大いなる禍マガのしらせにかかること ふたたびなかれとただ祈るなり
 
 昭和三十九年
 
 「紙」
*世に出イダすと那須の草木の書フミ編みて 紙のたふときことも知りにき
 
 「前同」
 わが庭にかうぞの木もて毛の国の 紙のたくみは紙にすきたり
 
 「佐渡の宿」
 ほととぎすゆふべききつつこの島に いにしへ思へば胸せまりくる
 
 「おけさ丸」
 風つよき甲板にして佐渡島に わかれをしみて立ちつくしたり
 
 「昭憲皇太后をしのぶ 二首」
 わが祖母オホバは煙管手にしてうかららの 遊をやさしくみそなはしたり
 
 「前同」
 おとうとら友らつどひておほまへに 芝居したりき沼津の宮に
 
 「オリンピック東京大会」
 この度のオリンピックにわれはただ ことなきをしも祈らむとする
 
 昭和四十年
 
 「鳥」
*国のつとめはたさむとゆく道のした 堀にここだも鴨は群れたり
 
 「前同」
 草ふかき那須の原より飛びいでし せつかの声を雲間にぞきく
 
 「新幹線 二首のうち一首」
 避け得ずに運転台にあたりたる 雀のあとのまどにのこれり
 
 「鳥取県植樹祭」
 しづかなる日本海をながめつつ 大山のみねに松うゑにけり」
 
 「三朝ミササの宿 二首」
 戦タタカヒの果ててひまなきそのかみの 旅をししのぶこの室を見て
 
 「前同」
 夜の間に河鹿のこゑのひびくなり きよきながれの三朝の川に
 
 「鳥取砂丘」
 砂の丘四里もつづけりかなたなる 松のはやしに雲雀のこゑす
 
 「宍道湖 三首のうち二首」
 夕風の吹きすさむなべに白波の たつみづうみをふりさけてみつ
 
 「前同」
 湖のますあみを見ておもふかな 白魚むれてきたりしころを
 
 「岐阜国民体育大会」
 晴るる日のつづく美濃路に若人は 力のかぎりきそひけるかな
 
 飼ひなれしきんくろはじろほしはじろ 池にあそべりゆふぐれまでも
 
 「厚子病気全快」
 背のねがひ民のいのりのあつまりて うれしききみはみ病なほりぬ
 
 昭和四十一年
 
 「声」
*日日のこのわがゆく道を正さむと かくれたる人の声をもとむる
 
 「鳩 二首」
 静かなる世になれかしといのるかな 宮居の鳩のなくあさぼらけ
 
 「前同」
 国民のさちあれかしといのる朝 宮居の屋根に鳩はとまれり
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