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以前に書いた「水槽のプラナリア」に関して、なんと、あの川勝正治博士から直々に情報をいただきました。やっぱり話は進んでいました。まだ一般にあまり知られていない事だと思いますので、文献をもとにしてここに紹介します。ご教示および引用の許可をいただいた川勝博士に深く感謝いたします。
(文責:佐々木玄祐 gen-yu@mtc.biglobe.ne.jp)
日本の水槽や養魚池では、現在までに3種のプラナリア類(外来種)が記録されているそうです。熱帯魚や水草の輸入に伴って入ってきたと思われます。以下この項の写真はすべて、文献5から一部を引用しています。
1968年に日本で最初に記録された水槽に出るムシです(文献10)。当初は有性個体が得られなかったため、外部形態をもとにして、次に紹介する Girardia tigrina であろう、とされていました。
その後、有性個体がいくらか得られ、また染色体の分析も進んだ結果、1985年に新種として記載されています(文献5、ただし核型は文献4)。名前の通り、東南アジア原産と考えられています(和名は文献11)。
これまでのところ、札幌(1968)、新潟(1970)、東京(1972)、佐賀(1984)で採集された記録が出ています。
左の図A,Bだけ生体で、他は固定標本。なお、Aは文献10のスケッチ、Bは文献9の手代木博士撮影のものです。
北米原産のサンカクアタマウズムシ科(Dugesiidae)の虫で、ヨーロッパに帰化しているほか、ほぼ汎世界的に移入種になっています。
以前はDugesia属に入れられていました。その後、一時は亜属 Girardia に入れられてDugesia (Girardia) tigrina のように示されていましたが、現在はDugesia とは別の属 Girardia に分類されています。基本的には生殖器官の構造に違いがあります。ユーラシア大陸産と、アフリカの一部のものが Dugesia、新大陸起源のものが Girardia で、ほかにも数属が南半球に分布しています。
文献5で触れられているのは、横浜(慶応大, 1979)と名古屋(名古屋大, 1982)で採集されたものです。いずれも無性個体ですが、外部形態・咽頭表面の色素、それに染色体分析の結果から本種と同定されています。また、文献6の鹿児島のもの(1985採集)も、核型を見ると本種のようです。
その後、長崎市浦上川からこの種が記録されています(文献2, 3)。ヨーロッパにこの種が帰化していることは古くから知られていますが、日本で帰化個体群が確認されたのは初めてだそうです。
図Aは横浜、Bは名古屋の無性個体(生体)。Cも同じですが固定標本、Fはブラジル南部産の有性個体(固定標本)。
このムシは写真のように、おなじみの「三角頭」ではありません。
ブラジルでRhodax everinae Marcus, 1946 という種が記載されています。その染色体の情報はありません。ただ、外部形態で見る限りは、この属で間違いなかろう、ということだそうです。
写真はすべて名古屋のもので無性個体(固定標本)とのこと。その後、札幌市の熱帯魚店の水槽から記録されています(文献1)。
上に紹介した写真で見ると、ウチのムシはまずRhodax ではないと思われます。問題はD. austroasiatica なのか G. tigrina なのか、ですが、ページの原色写真を見られた川勝博士によれば、
多分 D. austroasiatica でしょうとのお話でした。
正確には、もちろん生殖器官の形態を見なければならないのですが、それができない無性個体であっても同定は可能だそうです。具体的には G. tigrina の場合は、咽頭(エサを食べるとき伸びて出てくる部分)に淡い色素のスポットがいくつもあり、D. austroasiatica では染色体に特徴があります。 次に図を引用します。
Dugesia austroasiatica 佐賀市の標本(2つ別の個体) 大きい特徴として、端部着糸型染色体(5番目)が見られる。(文献4) Saga population 2x=16: 2m+2m+2sm+2sm+2st+2m+2m+2m |
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Girardia tigrina A: 横浜, B: 名古屋の標本 (文献5) A, Yokohama population; B, Nagoya population 2x=16: 2m+2m+2m+2m+2m+2sm+2m+2m |
うーん、こうなるとウチのムシの染色体も見たいですねぇ…。咽頭も見ないといけない…それに、これにも帰化個体群がいるんじゃないかなぁ。熱帯魚屋の近くの水路とか狙い目かも ^^;
参考までに、札幌でとれた Rhodax? sp. の核型も示します。 (文献1) この虫は、1個体中に違った核型をもっています。(プラナリアではよく見られるようです。)ブラジルの虫では、染色体の情報はありません。
A and B were found in the body of a single specimen from the Sapporo population.
A: 3x=24. 3m+3m+3m+3sm+3sm+3m+3sm+3sm
B: 3x+1LB+1SB=25+1SB. 3m+3m+3m+3sm+3sm+3m+3sm+3sm+1LB+1SB
広義のプラナリア 「三岐腸類」 は、これまで淡水生、海水生、陸生、という3つのグループ (Infraorder: 低亜目、下目) に分けられていました。しかし、上記の Rhodax を含むグループは生殖器官の構造がだいぶ違うので、Infraorder のレベルで独立させるのが今の考え方だそうです。(文献13)
生殖器官の解剖学的特徴は、一般的なアマチュアには観察不可能ですが、学問的には極めて重要な特徴です。きちんと勉強される方は、ぜひ文献に目を通してください。
Class "Turbellaria" 渦虫綱 | ||||||||||||||||||||
Order Seriata Bresslau, 1933 順列目 | ||||||||||||||||||||
Suborder Tricladida Lang, 1884 三岐腸亜目 | ||||||||||||||||||||
Infraorder Paludicola Hallez, 1882 淡水生三岐腸低亜目 | ||||||||||||||||||||
Family Dugesiidae サンカクアタマウズムシ科 | ||||||||||||||||||||
Dugesia Girard, 1850 ナミウズムシ属 | ||||||||||||||||||||
D. austroasiatica Kawakatsu, 1985 トウナンアジアウズムシ | ||||||||||||||||||||
Girardia Ball, 1974 | ||||||||||||||||||||
Girardia tigrina (Girard, 1850) アメリカナミウズムシ | ||||||||||||||||||||
Infraorder Cavernicola Sluys, 1990 | ||||||||||||||||||||
Family Dimarcusidae Mitchell et Kawakatsu, 1972 | ||||||||||||||||||||
Rhodax Marcus, 1946 | ||||||||||||||||||||
Rhodax? sp. ブラジルウズムシ | ||||||||||||||||||||
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Infraorder Maricola Hallez, 1882 海生三岐腸低亜目 | ||||||||||||||||||||
(カブトガニウズムシ、Miroplana など) | ||||||||||||||||||||
Infraorder Terricola Hallez, 1882 陸生三岐腸低亜目 | ||||||||||||||||||||
(コウガイビルなど陸生プラナリア類すべて) |
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