ヒメジャノメ(Mycalesis gotama fulginia)。あしの数に注目!
国語の教員U氏が
「チョウのあしは4本である。昆虫なので一応6本あるけど、2本は退化してるのだ」という。
そんなこと聞いたことなかったので、その場では「ふーん」などと言って、ひそかに調べてみました。
最初、チョウの写真集をぱらぱらめくって、ナミアゲハのあしの数を確認。ちゃんと6本。3対あります(左の写真参照)。それで次に会ったとき、
「Uさん、またまたウソついちゃって。昆虫なんだから6本。幼虫時代から胸脚っていうのが3対あるの」と言ったのだが、
「いや、絶対4本である。オレはちゃんと自分で見たのだ」と譲らない。
私も一応確かめてあるので、4本だ6本だと決着がつかなかった。彼があんまり自信たっぷりなので、また後でその写真集をいろいろ見てみると、確かに4本しか写ってないものがある。「ありゃりゃ」と別の本を見ると、
タテハチョウ科やジャノメチョウ科のように前あしが退化し、歩行の用をなさないものもある
という記述も発見(標準原色図鑑全集1 蝶・蛾 白水隆、黒子浩 保育社1966 p.IX)。
要するに私も彼も正しくなかった。チョウのあしの数は、基本的には6本。ただし、彼のいう通り、6本のうち2本が退化して4本あしに見えるチョウがかなりいるのです。
しかしこの勝負、完全に私の負けですね。U氏は自分の観察によって、あしが4本に見えるチョウがいることを認識していたのに対し、私はそうしたチョウを見ていた(写真もとってる)くせに、全然気づいてないんだもん。「昆虫=6本あし」というアタマが邪魔をしたのかもしれません。生物屋として反省。
Study nature, not books!
といいつつ、図書館にあった古い資料(原色昆虫百科図鑑 古川、長谷川、奥谷編 集英社 S.40)からチョウのあしについてまとめてみました。
アゲハチョウ科(Papilionidae) | 少しも退化せず、どのあしにも爪2個 |
シロチョウ科(Pieridae) | ♂でも前あし退化せず、爪は2つに分かれる |
タテハチョウ科(Nymphalidae) | 前あしの付節は退化して爪がなく、常に胸につける |
マダラチョウ科(danaidae) | ♂の前あしの付節は2節。♀は4節。先の3節は球状にくっつく |
テングチョウ科(Libytheidae) | ♂の前あしは退化。♀は付節が5節で爪もある |
ジャノメチョウ科(Satyridae) | ♂の前あしの付節は2節、♀が3節で退化している |
シジミチョウ科(Lycaenidae) | ♂の前あしの付節はやや短くて退化、爪が1-2ないことがあるが、歩くのには役立つ |
セセリチョウ科(Hesperidae) | (記述なし) |
「付節」(ホントは足へんが付く)というのは、足の一番先の部分です。図を出せばいいんだけど。
こうしてみると、ちゃんとしてる方が少数派か? 特に♂は退化してるものも多い感じがします。ただこの中で、一番有名なのはタテハチョウ科で、「四足チョウ」の名もあるらしいです(動物の事典 東京堂 p.302、原色昆虫百科図鑑 p.408 など)。また、この退化したあしには味覚器があり、エサを前あしでたたいて味見したりする、とのこと(カラー日本の蝶 小檜山、高瀬、藤岡 山と渓谷社 S.46 p.127)。
昆虫少年(少女)にはジョーシキ、ですか?(はずかし!)。
閑話休題。このページ書くため、大昔の写真を引っ張り出しましたが、撮影はどちらも東京都港区です(某A Hills、Sホールのそば。もちろん当時はそんなのない)。もう20年以上前だけど、当時は今よりずいぶん虫が多くいた気がします。このほか、クロアゲハ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、キマダラヒカゲなどの写真が出てきました(ボケボケのが多くてガックリ。でも案外色は残ってました)。
私は昆虫少年では全然ありませんでしたが、一応アゲハは飼育して写真とったですね。ナツカシー。
高波雄介氏の東南アジアのシジミチョウを中心としたサイトJamides HomePageの中に、蝶と昆虫のリンク集っていうのがあります。いやいや、やっぱり虫屋さんはすごいなぁ。
小西正泰著 「虫の文化史」 朝日選書446 朝日新聞社(1992) を読んでいて、興味深い記述を発見。「昆虫のフォークロア」の「チョウ」の中に「工芸品のなかのチョウ」という項目があり、そこ(p.67)に、
脚の数は、…(中略)…ところが鎌倉時代このかた、四本になっている作品が少なくない。 一方、桃山時代には正しく六本の脚をもった作品が四点もある。
とありました。4本だという人が昔からいた訳かな。
ところで、最近出た同氏の「昆虫の本棚」八坂書房(1999)は、題名通り昆虫の本のガイドとして便利です。書評が100冊分、巻末の資料は日本で出た昆虫関係書籍1300余をカバーしています。